本研究は、星間空間における巨大有機分子の性質・起源・反応過程の解明に向けて、有機分子の電子遷移吸収バンドと考えられている``diffuse interstellar bands'' (DIB) の赤外線高分散分光観測を行い、DIBを引き起こしている未知の星間有機分子の同定を目指すものである。 令和元年度は、まず主力装置であるWINEREDを用いてこれまでに取得してきた大量の天体のデータセットを系統的に解析・管理できるデータベースおよび解析ソフトウェアの開発を行った。これにより、本研究で新たに検出した数多くのDIBについて、効率的に解析を行うことが可能となる。本ソフトウェアを利用して現在、星形成領域や分子雲、惑星状星雲といった特徴的な物理状態をもつガス雲中におけるDIBの解析を着実に進めている。特に、現在までに唯一DIBのキャリアとして同定されており星間化学の理解に重要なフラーレンや、本研究で検出に成功したC2、CN分子との関連に着目して研究を進め現在論文化を進めている。 また、WINEREDを口径6.5mのマゼラン望遠鏡(チリ・ラスカンパナス観測所)への移設検討が進み、それに伴ってDIBの観測についても検討を行った。大口径化による感度向上によって系外銀河やクェーサーを背景光源として高赤方偏移のガス雲中においてもDIBの検出が可能となることがわかり、海外研究者と連絡を取り観測プロポーザルの準備に着手した。WINEREDで取得する観測データの解析パイプラインソフトについても、移設に伴って必要となる開発項目を洗い出しアップデートを行った。
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