研究課題
本年度は、本研究課題の予備的な研究として超新星残骸の可視光観測、及び超新星のX線観測を推進した。東京大学・木曽観測所のシュミット望遠鏡を用い、銀河系内の超新星残骸G156.2+5.7のHα測光観測を実施した。特に明るい北と東のフィラメントに着目し、2004年に米国McDonald観測所で撮像されたHα画像と比較することで、その固有運動を測定した。その結果、膨張速度は上限値として年間0.06秒角と非常に遅いことが判明した。この上限値とX線スペクトル解析から推定した衝撃波速度(~500 km/s)を組み合わせることで、G156.2+5.7までの距離を1.7 kpc以上と導出した。加えて、計測した膨張率を他の超新星残骸と比較することで、年齢を数万年以上と類推した。これらの推定値は過去に報告されたどの結果よりも信頼性が高い。さらに、G156.2+5.7の北端に位置するフィラメントを「すばる」望遠鏡を用いて高分散分光観測した。その結果、残骸からのHα狭輝線を明瞭に検出することに成功、その輝線中心値が-35km/sと測定できた。この視線速度を銀河回転モデルと比較することで、G156.2+5.7までの距離を6 kpcと見積もった。近傍銀河で発生したIIn型超新星(SN 2005kd, SN 2006jd, SN 2010jl)につき、X線モニター観測データの系統解析を行った。その結果、スペクトルが共通して次の3フェーズを経ることを発見した:1.硬X線成分のみ(爆発1-2年未満)、2.硬X線成分に軟X線成分が加わる(爆発1-2年後)、3.軟X線のみ(それ以降)。我々は、このような特徴的なスペクトル進化は、星周物質の空間構造がドーナツ形状であれば説明できることを示した。
3: やや遅れている
当初の計画では、X線天文衛星「ASTRO-H(ひとみ)」がフル稼働し、その初期観測データにより研究が躍進する筈であった。しかし残念ながら、「ひとみ」衛星は本格運用を開始する前に予期せぬトラブルに見舞われ、本研究の主眼とするIa型超新星残骸については1天体も観測できなかった。これが本研究の遅れの理由である。それでも、可視光や既存のX線天文衛星「チャンドラ」「XMM-ニュートン」による超新星残骸の観測は着々と進めており、一定の成果を創出できた。
「ASTRO-H(ひとみ)」衛星を喪失した状況にあるが、2021年頃の打ち上げを目指す「ひとみ代替機」計画が進行中であり、その成果を最大化すべく、今できる観測を粛々と進め、打ち上げに備える必要がある。私は昨年度に、2つの超新星残骸(G156.2+5.7、Puppis A)を観測し、さらに今年度にも別の2つの超新星残骸(RX 1713.7-3946、Tycho)の観測を実施する予定であるので、そのデータ解析を進める。とりわけ、Tychoの超新星残骸の観測は本研究課題との関連性が高いので、その見通しを詳述する。この超新星残骸は、過去の様々な観測により、Ia型超新星の残骸であることが確定している。我々は「XMM-ニュートン」衛星による南東部に位置する輝点構造の長時間(127 ks)観測を提案、採択された。観測の目的は複数あるが、特に興味深いのは酸素輝線の検出である。過去の観測から、この輝点構造は爆発噴出物由来であることが判明しているため、そこに含まれる酸素量を計測することで、爆発時の「燃え残り」の酸素量を推定するこができる。これにより、Tychoの超新星が白色矮星ひとつの爆発によるものなのか(single degenerate)、白色矮星ふたつが爆発した結果(double degenerate)なのかを判別する。今回の観測対象(南東部に位置する輝点構造)は超新星残骸全体からすればごく一部の領域であるため、本研究結果が決定打になるかどうかは不明であるが、「ひとみ代替機」のパスファインダーとして極めて重要な成果となることは間違いない。
当初、科研費で賄う予定であった国内研究会の出張旅費を、会議主宰者側に負担して頂けることになったため。
本年度の国内研究会(天文学会年会など)の出張旅費に充当する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 9件、 査読あり 10件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 7件、 招待講演 2件)
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