研究課題
中性子星は数100 km/sにも達する高速で運動することが知られている。そのメカニズムは未だによく理解されていないが、現在のところ、爆発時の(1)非等方的な爆発噴出物ないし(2)非等方的なニュートリノによって蹴り飛ばされるという二説が有力となっている。この二説を切り分ける上で最適な観測対象は、銀河系内および近傍銀河の超新星残骸である。距離が非常に近いため、超新星イジェクタの詳細分布のみならず中性子星の位置まで精度良く測定できるからである。イジェクタ分布を導出するには、スペクトル解析によって視線方向に重なる星間・星周物質を適切に取り除く必要がある。この作業を残骸の各所で行う必要があり、それに大変な労力がかかるため、これまでイジェクタ分布図が明らかにされた例はほんの2-3しかなかった。そこで我々は、従来法より効率良く、X線観測画像をイジェクタと星間物質などの各成分分布図に分解する手法を開発した。この新手法を6つの超新星残骸に適用したところ、全ての残骸において中間質量元素イジェクタと中性子星が反跳することが判明した。さらに、イジェクタの非対称度とキック速度の間には相関傾向が見られた。この結果は明快に説(1)を支持している。本結果は、査読論文としてまとめるとともに、国際会議で3回、国内の研究会・セミナーで4回報告した。この他、(1)「すばる」望遠鏡FOCASによるティコの超新星残骸東端に位置するHαフィラメントの偏光分光観測、(2) XMM-Newton衛星による超新星残骸RX J1713.7-3946の全域観測、(3) XMM-Newtonによるティコの超新星残骸の南東に位置するイジェクタ構造の観測を実施した。いずれの観測についても、データ解析を観測グループの中心になって進めている。
2: おおむね順調に進展している
本研究を飛躍的に進展させる筈であったASTRO-H(ひとみ)衛星を喪失したものの、所期の予定通り着実に、Chandra、XMM-Newton衛星および可視光天文台を用いた超新星残骸の観測を推し進め、多岐にわたる成果を得た。そのうちの一部はすでに査読論文(17編、うち4編が主著)および国内外の学会・セミナーで発表してきた(登壇回数29)。これらの結果の多くは、当初予定していたIa型超新星の親星と最大光度の関係性に直結するものでは無いが、超新星爆発に関するものがほとんどであるため、当該分野の発展に貢献している。なお、現在進行中のティコの超新星残骸の観測データ解析からは、まさに所期の目的と直結する結果が見込まれる。最終年度内に解析と解釈を詰め、査読論文として公表する予定である。
XMM-Newton衛星に搭載された分散分光器による観測提案が順調に採択され、当初の目標であったX線精密分光に値する良質データが取得できた。これらに加え、Chandra衛星に搭載された分散分光器のアーカイブデータも利用し、超新星残骸のX線精密分光観測を推し進める。現在、2021年頃の打ち上げを目指す「ひとみ代替機」計画が進行中である。私は本年度より、この計画の一部門であるScience Operation Teamに本格参入した。本年度は検出器チームへの積極的な貢献も含め、ミッションの成功に向け尽力する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 6件、 招待講演 6件) 図書 (1件)
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