当該年度は、本研究計画の最終的な目的である、暗黒物質中の原始ブラックホールの存在量に対する観測的制限を与えることに取り組んだ。そのために、ホーキング放射を起こす軽量の原始ブラックホールが銀河系内および系外に暗黒物質として存在する可能性を想定し、それらから放出されて伝播したのちに地球に到来する宇宙線反陽子およびガンマ線のフラックスを理論的に評価することを行なった。反陽子については、銀河系の暗黒ハローに密に分布する原始ブラックホールから放射されて定常的に地球に到来する成分と、地球近傍で個別の原始ブラックホールからバースト的に放射されて到来する成分の両方を検討した。前年度までの成果を取り入れ、宇宙線の源となるハドロンジェットの計算には数値計算用公開コードPythiaのバージョン8を利用し、宇宙線反陽子の伝播についても、更新された散乱断面積を取り込む改良を施した。また、反陽子とガンマ線の観測データは、それぞれAMS-02とFermi LATによる最新のものを採用した。観測されている宇宙線フラックスと、原始ブラックホールから放射されることが予想される宇宙線の理論フラックスとの比較からは、原始ブラックホールが宇宙線の源として顕著な寄与をしている可能性が除外されることが分かった。定量的には、上述した2種(3成分)の宇宙線から得られる5×10の14乗グラム付近の原始ブラックホール存在量への制限はそれほど大きく違わず、もっとも強い制限はガンマ線によって与えられることが分かった。
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