研究課題/領域番号 |
16K17678
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
森口 哲朗 筑波大学, 数理物質系, 助教 (10635890)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スキン構造 / 不安定核 / 密度分布 / 反応断面積 |
研究実績の概要 |
不安定原子核の特徴の一つにスキン構造がある。これは原子核表面に現れる過剰の中性子もしくは陽子の層を指す。スキン構造は不安定原子核の理解にとって重要な特徴であるが、従来の方法では技術的な制限から実験的にスキン厚を測定できる不安定原子核が限られる。本研究では、スキン厚を知るための新しい手法として、固体水素と固体重水素を反応標的に用いた反応断面積測定を行い、不安定原子核の陽子密度分布と中性子密度分布を別々に導出することを目的とする。 平成28年度は「(1)固体重水素標的の開発」、「(2)反応断面積測定における計測システムの確認」、「(3)陽子過剰核17Neの収量の確認」を行った。(1)に関しては、既存の固体水素標的のシステムを用いて行った。標的として利用するためには、空孔や亀裂のない固体を作る必要があるが、現状、固体の生成中に亀裂が発生する。重水素ガスの供給圧力を変化させる等、最適な生成条件を調べている。(2)に関しては、放射線医学総合研究所の重粒子加速器HIMACを利用した。核子当たり180 MeVの20Neを固体水素標的に照射させ、検出器の動作確認を含むテスト実験を行った。解析によって得られた実験データは先行研究の結果と同様の傾向を示し、計測システムとしては概ね問題ないことを確認した。このテスト実験によって、不安定原子核を対象とした本実験へと繋げることができる。また、この実験では、(3)も併せて行った。17Neのスキン厚は既知であり、本手法で得られるスキン厚と比較することで、本手法の妥当性を確認できる。20NeをBe標的に照射させ、入射核破砕反応によって生成される17Neの収量を調べたところ、実際の収量は予想値の約3分の1だった。この情報は、今後の実験計画を立てる上で重要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
固体重水素標的の開発に関しては、まだ、固体生成における最適条件は得られていないが、固体重水素の作成と回収は、これまでの固体水素標的の手順と同様に行えることが確認できた。反応断面積測定に関しては、平成28年度にHIMACを利用したテスト実験を実施し、検出器や計測システムが整備されていることを確認した。これによって、不安定原子核を対象とした本実験へのベースは固まったと言える。陽子過剰核17Neの収量確認もできていることから、実験計画を適切に立てることで、平成29年度には本手法の妥当性の確認ができると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画通り、陽子過剰核17Neの反応断面積を測定し、スキン厚の導出を試みる。本手法の妥当性が確認できたら、スキン厚が未知である不安定原子核(9Cや17F等)を対象とした実験を進める。固体重水素標的に関しても、引き続き、固体生成における最適条件を調べる。場合によっては、亀裂の程度を知るために、イオンビームを用いて評価することも検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、重水素ガスの新規購入はせず、固体重水素の生成・回収が順調だったことから、既存の重水素ガスだけで開発を進めることが出来た。その一方で、実験を行うための消耗品や旅費等の必要経費が予想以上に大きかった。この差分が次年度使用額として生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は複数回の実験を計画している。実験は放射線医学総合研究所で行うが、実験準備期間を含めると長期間の滞在となる。また、固体水素標的システムなどの大型実験装置の移動には専門業者に委託するので、実験の度に運送経費も加わる。次年度使用額は、実験遂行の必要経費に充てたいと考えている。
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