研究実績の概要 |
アイソベクトル型対相関の新しい実験的な指標として、対回転の慣性モーメントを提案した。従来、原子核対相関の指標としては偶核と奇核の束縛エネルギー差が用いられているが、この量には原子核密度汎関数法による計算では精度が出ない奇核のエネルギーが関与するため、原子核対相関の精密な議論がこれまで困難であった。対回転の慣性モーメントは奇核が関与しない量であるため、原子核密度汎関数法で精度良く計算でき、これを用いることで原子核対相関の解明が進むことが期待される。平成28年度にはアイソベクトル型の対密度汎関数の拡張を行い、対密度の空間微分項を軸対称変形原子核密度汎関数計算コードHFBTHOおよびその線形応答計算コードに導入した。これを用いて、錫と鉛同位体の対回転の慣性モーメントを系統的に計算し、対密度の空間微分項によって対回転の慣性モーメントの実験値をより精密に再現できることを示した。 中性子-陽子対相関の解明に向けて、中性子-陽子混合密度と対相関項を持つ、原子核密度汎関数法の数値計算コードをHFBTHOをベースに開発を行っている。平成28年度にはアイソベクトル型の対相関の導入がほぼ完了し、アイソバリック・アナログ状態の計算が可能となった。これを用いてA=48,T=4の球形アイソバリックアナログ状態や、A=100,T=10の軸対称変形アイソバリック・アナログ状態をアイソスピン回転によって計算した。アイソスピン不変な密度汎関数を用いた場合に、アイソベクトル型対相関の3成分のアイソスピン回転による変化を分析し、中性子-陽子対相関の役割を明らかにした。さらに、アイソスピン対称性を破るクーロン力を導入し、対称性の破れによる中性子-陽子対相関への影響の分析を進めている。
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