近年、素粒子標準理論では説明のできない実験結果がいくつか報告されている。2021年度は、これらを念頭に素粒子標準理論を超える新しい物理理論の正体の解明に向けて、クォークの精密測定に関係する研究とレプトンの異常磁気モーメントに関係する研究を中心に行なった。 まず前者の研究では、B中間子からD中間子を含むセミレプトニック崩壊から示唆されている新しい物理理論の候補を、近い将来LHC実験によってどのように検証していくのか明らかにした。また、近年の理論の進展によって、B中間子からD中間子を含むハドロンへの崩壊に関する理論計算の誤差が小さくなった結果、実験結果を素粒子標準理論では説明できないことが報告されていた。2021年度の研究では、これらの理論計算では見落とされてきた効果を指摘した。しかし、この効果を入れても依然として素粒子標準理論では実験結果の説明が難しいことを明らかにして、さらに新しい物理理論の可能性を探った。 次に、レプトンの異常磁気モーメントに関係する研究では、ミューオンの異常磁気モーメントの測定結果が新しく報告されたことを受けて、実験結果を説明するために新しい物理理論の可能性を探った。新しい実験結果は従来の結果をサポートするものであり、さらに実験の測定誤差が小さくなったことで、新しい物理理論による効果が見えてきた可能性がより高まった。2021年度はこの実験結果を超対称標準模型により自然に説明することができることを世界に先駆けて指摘した。さらに、この模型では宇宙暗黒物質の残存量を自然に説明することができることを示した。
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