研究課題/領域番号 |
16K17684
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
日影 千秋 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任助教 (00623555)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ダークエネルギー / ダークマター / 宇宙大規模構造 / 重力レンズ |
研究実績の概要 |
すばるハイパー・シュプリーム・カム(HSC)の第1期銀河撮像カタログを用いて、宇宙大規模構造による弱い重力レンズ効果「コズミックシア」の測定を行った。銀河の測光情報から推定した赤方偏移をもとに距離の異なる銀河サンプルに分けることで、ダークマターを含む宇宙の全物質の構造が数10億光年にわたって時間成長する様子を調べた。全物質の構造の凸凹度合いを各スケールごとの関数として表すパワースペクトルの測定を行った。銀河撮像データのサーベイ領域は明るい星によるマスクのため複雑な形状をしており、そのまま球面調和展開をすると、本来のパワースペクトルを再現することはできない。そこで宇宙マイクロ波背景放射の観測にも応用されている擬似スペクトル法を用いてサーベイ形状の補正をし、本来のパワースペクトルを再現することに成功した。ベイズ推定に基づき宇宙論パラメターを決定した。特に現在の宇宙の全物質の構造の凸凹度合いを示す物理量S8を誤差3%の精度で測定することに成功した。今回用いたHSCデータは前計画の11%程度のものであるが、欧州主導のKiDS計画や米国主導のDES計画と同等以上の精度で測定することに成功したのである。またプランク衛星の宇宙マイクロ波背景放射による宇宙初期の観測結果との比較を行った。両者がどの程度食い違いがあるかベイズ推定に基づき定量化を行った。その結果、両者に明確な矛盾こそ見つからなかったものの、KiDSやDES同様プランクよりも小さいS8値であった。S8の値は宇宙の標準模型ΛCDMのもとで導出した値であり、プランクとの食い違いはΛCDMの綻びを示唆するものであり、ダークマターやダークエネルギーの正体解明にもつながるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の一つであるすばるHSCのデータを用いた初めての宇宙論解析を行い、論文としてまとめ、日本天文学会欧文研究報告誌(PASJ)にて出版されることが決定した。プランク衛星による宇宙背景放射の観測データや銀河クラスタリングによるバリオン音響振動の結果と組み合わせ、精密な宇宙論パラメターの推定を行った。また異なる観測間で矛盾がないかベイズ推定に基づき定量的な解析を行った。本研究成果については2018年9月26日に記者会見を行い、全国紙や科学雑誌、海外のメディアなどで紹介された。
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今後の研究の推進方策 |
今後さらに精密にプランク衛星による宇宙初期の観測と重力レンズによる成長後の宇宙の観測との食い違いを調べるうえで、系統誤差の改善に取り組む。本研究ではコズミックシアのパワースペクトルを用いた解析を行ったが、宇宙マイクロ波背景放射や銀河のクラスタリング情報と組み合わせることで、さらに多くの情報を引き出すことができる。異なる観測量を組み合わせたより多くの情報を引き出すための解析手法の開発に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
出張費用の先方負担など、当初の予定より出張費を抑えることができた。今後はさらに長期の出張やより多くの場所での研究発表を行い、研究成果を広めるとともにさらなる研究の発展に取り組む。
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