研究課題/領域番号 |
16K17687
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
吉田 賢市 新潟大学, 自然科学系, 助教 (00567547)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 原子核密度汎関数法 / 集団振動 / ガンマ振動 / ベータ崩壊 |
研究実績の概要 |
原子核の変形・核子の超流動性を考慮に入れた密度汎関数計算により,重い中性子過剰核における低励起集団運動の微視的かつ系統的分析を行った。特に,理研で最近得られた希土類領域の不安定核の実験結果を説明するとともに,更に中性子が過剰な原子核における予言を行った。 陽子数・中性子数ともに魔法数から離れた原子核では,核子間の相関(単純な球形平均場には取り込めなかった残留相互作用)が最強となり,様々な対称性が自発的に破れた状態がエネルギー的に安定化する。このような原子核は中性子過剰で不安定である場合が多く,実験的にもそのような原子核での集団運動の性質に興味が持たれてきた。 理研RIBFのEURICA国際プロジェクトでは,質量数が170程度の中性子過剰な希土類原子核のベータ崩壊・ガンマ崩壊を通した核分光研究が行われた。特に,陽子数66を持つジスプロシウムの同位体(172Dy)では,極めてエネルギーの低い集団振動状態と思われる励起状態が見つかった。そこで,幾つかのスキルム型エネルギー密度汎関数を用いた線型応答計算を遂行し,非軸対称変形の方向に振動する集団モードであるガンマ振動の励起エネルギーの中性子数依存性が,実験での測定値を見事に再現した。そこでは中性子・陽子ともにフェルミ面近傍の殻構造が物理を支配していることを明らかにした。そのような微視的メカニズムに基づくと,更に中性子過剰になれば,より集団性が強くなることを予言した。 また,ベータ崩壊の系統的測定が同じプロジェクトで行われた。密度汎関数計算では,実験結果を完全に説明することはできていないが,どのような殻構造の性質が重要であるかをあぶり出しつつある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
原子核密度汎関数法に基づく線型応答計算で,最新の実験結果を定量的に説明できることを示したことは大きな成果である。また,微視的な分析に基づく予言は,今後の実験の強い動機付けを与える。しかしその一方で,ベータ崩壊の半減期については,中性子ー陽子相関や負パリティ状態の存在可能性など,まだまだ調べることがある。
|
今後の研究の推進方策 |
他の質量数領域でのガンマ振動などの励起モードの系統的性質を明らかにし,広い質量数領域における原子核の集団運動発現の微視的メカニズムを理解するという,本研究の大きな目標に挑む。特に,ドリップ線近傍で,連続エネルギー状態が関与するような状況での集団運動の発現可能性を追究する。また,荷電交換型の集団運動については,負パリティ状態において,どのような励起モードが現れるのかを調べることがまず重要である。その上で,ベータ崩壊における禁止遷移の効果を考える,という流れになるであろう。
|
次年度使用額が生じた理由 |
旅費の支出が多く,計算機の調達が間に合わなかったため
|
次年度使用額の使用計画 |
スパコンでの計算結果分析及び可視化のためのパソコン及びパソコンソフト購入で使用の予定
|