研究課題
核子の自由度をあらわに扱う微視的な量子多体理論である原子核密度汎関数法に基づき,中間質量数をもつ中性子過剰核におけるスピン・アイソスピン応答を系統的に調べた。昨年度に引き続き,負パリティ状態に着目した。今年度は,スピン自由度が結合したスピン双極子励起モードを記述できるよう,計算に必要な行列要素の式を整備した。スピン双極子の演算子は空間とスピン空間でそれぞれベクトルであり,スカラー・ベクトル・2階のテンソル演算子となる。これまでの多くの研究では原子核の球対称性を課すことで,角運動量を指定した定式化がなされてきた。本研究では,原子核の変形を考慮に入れた計算コードを開発しており,角運動量を指定しない枠組みとなっている。したがって,それに応じた新しい表式を導き,変形核に対するスピン双極子励起モードの記述に世界で初めて成功した。これを,球形核に対する先行研究と比較し,異なる枠組みでの計算が一致することを確かめた。スピン双極子演算子に対する行列要素の定式化とその数値計算ができるようになったことで,禁止遷移を考慮に入れたベータ崩壊率の微視的計算が行えるようになった。議論を単純にするために球形な原子核,すなわち陽子数について魔法数をもつ中性子過剰核のベータ崩壊率の系統的な計算を行った。ニッケル同位体において,中性子数が魔法数である50を越えると半減期が急激に短くなることが最近の理研RIBFの実験で測定されたが,その微視的メカニズムを解明することに成功した。準魔法数40と魔法数50のエネルギーギャップの関係,及び魔法数50を越えたところでの殻効果によってベータ崩壊率に対する禁止遷移の寄与が影響を受け,それが半減期の不連続性を生じさせていることを明らかにした。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
Progress of Theoretical and Experimental Physics
巻: 2019 ページ: 011D01(1), (10)
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Physical Review C
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