研究実績の概要 |
本研究の目的は、最新の宇宙観測を通じて、インフレーション宇宙で生成された揺らぎの分布を調べることにより、超高エネルギーのインフレーション期における物理法則を解明することである。とりわけ、究極の理論として期待されている超弦理論の検証を行っていく。
超弦理論は10次元の理論であるため、4次元の我々の世界の物理法則を導くためには、6次元の余剰空間を小さく丸めるなどして、余剰次元方向が見えなくなるようにしておく必要がある。本課題では、超弦理論における重要な対称性であるモジュラー不変性が、4次元の理論でも同様に成り立っていた場合に、どのような現象論的痕跡が現れるのかを検証した。具体的には、モジュライと呼ばれる余剰次元の幾何学的自由度を記述する場が、モジュラー不変性を保持していた場合に、どのようなインフレーション模型が実現されるのか、またどのような初期揺らぎが予言されるのかを調べた。インフレーション模型には、大きく分けて、ラージフィールド模型とスモールフィールド模型の二種類が存在するが、モジュラー不変性が存在する場合には、ラージフィールド模型の実現は非常に困難であることがわかった(Kobayashi, Nitta, Urakawa 2016)。 また、超弦理論は、四次元の世界において、多くの重い場の存在を予言する。このような場はインフレーション宇宙の背景時空の時間発展には寄与することはないが、揺らぎの時間発展には影響を与え、その結果、揺らぎの宇宙論的観測から、このような重い場に関する情報が得られる可能性がある。本研究では、重い場が大スケールで、原始揺らぎに与える影響について議論した。特筆すべき成果としては、因果的な結びつきのない大スケールでは、宇宙進化において重要となる断熱成分の揺らぎの時間発展には重い場は影響を与えないことが示された(Tanaka, Urakawa 2016)。
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