研究課題/領域番号 |
16K17690
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
川出 健太郎 神戸大学, 先端融合研究環, 特命助教 (90749243)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | トップクォーク / 荷電非対称度 |
研究実績の概要 |
LHC実験が本格的に始まって7年が経過したが、素粒子の標準理論を超える物理事象の有意な兆候が観測されていないことから、その寄与は小さく、精密探索による探索の重要性が示唆されている。本研究では、トップクォークをプローブとした新物理の兆候の探索、特にトップクォーク対の荷電非対称度の測定による探索を目標にしている。トップクォークは標準理論粒子の中では、極端に重い粒子であり、そのため未知の重い新粒子との強い結合が様々な模型で予言されている。 今年度は、荷電非対称度測定で新物理の兆候を探索するために、1) トップクォーク対にWボソン随伴生成する事象(以下、ttW事象)を要求することの有用性の研究、および、2) その場合における背景事象の抑制方法の研究を中心に行った。 1) LHC-Run2のデータからどれくらいの信号を期待できるかを、モンテカルロシミュレーションデータを用いて確認した。ttW事象における荷電非対称度の測定のためには、トップクォークの力学変数の再構成が必要であるが、終状態が非常に複雑であり、実験的にそれらの粒子の力学変数を再構成することが困難であることが判明した。そこで私は、カイ二乗フィッティング法を用いて、力学変数を再構成する方法を開発し、ATLAS実験グループ内の会議で報告を複数回行った。次年度以降この手法を応用して、荷電非対称度の測定を行う。 2) 計画通り、サポートベクターマシン(SVM)法による信号事象と背景事象の分離の研究を行った。信号と似た終状態を持つ稀事象に対する弁別するために必要な変数の最適化を行った。またこの手法を実施するためのソフトウェア開発も完了した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ttW事象による荷電非対称の研究は、モンテカルロシミュレーションに基づく見積もりでは、2017年末までのデータをすべて用いることで、200事象程度得られることが分かった。 ただし、ttW事象の信号領域の実験データの公開が、ATLAS実験グループ内で許可されておらず、実際の実験感度がどれくらいになるかがまだ確認できていない。 目標の一つであった、SVM法による信号事象と背景事象の弁別手法の構築はおおむね完了した。現在はモンテカルロシミュレーションベースで構築した手法であるため、今後実データを用いて手法がうまく働くかを確認する必要がある。 一方で、上記の研究を進めた中で、解析のソフトウェアフレームワークの開発は非常に順調に進んだ。このため次年度以降の飛躍的なスピードアップが期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
ttW事象は、それ自体が稀な標準理論過程であるため、ATLAS実験での探索が行われている信号でもある。そのため2016年に測定したデータのttW信号領域を確認することがATLAS実験グループでは、まだ許可されていない(2017年4月現在)。2017年に測定できる実験データも同様に開示されない可能性があるため、統計量の問題で目標とする精度が得られない場合が想定される。 そこで、Wボソンを要求せずに、特定のフェイズスペースでのトップクォーク対事象に着目した荷電非対称度の測定も並行して実施する。例えば、トップクォーク対の不変質量が非常に高い領域では、重い未知の粒子による寄与が出やすいため、感度の向上が見込まれる。この場合でも、本計画で開発した力学変数再構成手法やSVM法は応用可能であり、目標の精度での測定を目指す。特に2レプトン終状態では、精度用測れる荷電レプトンの力学変数を用いた荷電非対称度の測定も可能であるため、重点的に研究を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
データ解析に用いる計算機を、ディスク容量の小さいものを選択したため、想定よりも若干安価(80,105円)で調達できたため、19,895円の残額が生じた。 追加のハードディスクドライブを購入して賄う予定であったが、29年度のデータ測定が開始するまでに購入すれば間に合うので、次年度使用額として計上した。
|
次年度使用額の使用計画 |
29年度は、計画通り欧州原子核研究機構への長期滞に予算を用いる。9月~12月の4か月程度、現地に滞在し、現地の共同研究者と密に連携しながら議論を重ね、研究を迅速に推進する。また、データ記録用のハードディスクの購入にも経費を使う。
|