研究課題/領域番号 |
16K17693
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
山中 真人 京都産業大学, 益川塾, 博士研究員 (70585992)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 素粒子理論 / 暗黒物質 / 暗黒物質直接検出実験 / 暗黒物質間接検出実験 |
研究実績の概要 |
暗黒物質の正体として新粒子が有力視されている。今日におけるその存在量は、暗黒物質粒子の質量と対消滅反応を与えることで算出される。その結果を存在量観測値と比べることで新粒子の情報を抜き出すことができる。言い換えれば、暗黒物質の残存量計算を間違った形で行なった場合、観測との比較から得られる新粒子の情報は歪んだものとなる。新粒子が持つ相互作用や、その相互作用相手の初期宇宙における挙動を的確に扱うことが肝心である。 いずれの探索実験においても暗黒物質が見つかっていないという結果を背景に、近年、暗黒物質と標準模型粒子が媒介粒子を介してのみ繋がる枠組みが注目されている。この種の枠組みにおける暗黒物質残存量は、暗黒物質と媒介粒子の反応断面積により決まる。これまでの数々の研究で、様々な形で暗黒物質と媒介粒子が導入され、残存量が算出されてきたが、媒介粒子の寿命に注意が払われてこなかった。 今年度、媒介粒子の寿命と暗黒物質残存量の相関について丁寧に調べた。暗黒物質と媒介粒子の相互作用が強いシナリオに注目した。このシナリオは大規模構造形成の観点から示唆されるものである。熱浴中で暗黒物質と媒介粒子の交換過程が高い頻度で起こるため、暗黒物質密度は媒介粒子密度の変動に引き摺られる形で変動する。そのため、媒介粒子の寿命が暗黒物質密度の凍結のタイムスケールと同程度の場合、媒介粒子の崩壊により暗黒物質の密度も減少する。こういった形で媒介粒子密度と暗黒物質密度が影響を及ぼしあうことで、残存量が媒介粒子の寿命によりコントロールされ、何桁も変動し得ることを本研究は明らかにした。したがって、媒介粒子を擁する暗黒物質模型を正しく描き出すためには、暗黒物質の時間発展方程式に媒介粒子の寿命を丁寧に取り込むことが必須となる。これが本研究により示された重要な結論となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
質量縮退スペクトルを擁する素粒子模型において、暗黒物質残存量を高精度定式化を行なった。今後、こういった素粒子模型における暗黒物質を探っていく際に注目すべきパラメーター空間を特定するうえで、重要な進展といえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題として暗黒物質が浸る熱浴温度の理解向上を挙げる。暗黒物質は媒介粒子を介してのみ標準模型と繋がっており、標準模型粒子との繋がりが微弱である。そのため、暗黒物質が纏う温度は標準模型粒子のそれとは異なる可能性がある。こういった状況下では、用いるべき粒子の分布関数や時間発展方程式が非自明である。これらの定式化、及び、それを取り込んだうえでの暗黒物質残存量の精密計算が今後の課題となる。
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