研究課題
これまでの研究の集大成としてのレビュー論文を2編(核媒質中の重いハドロンの性質、重イオン衝突におけるエキゾチックハドロン生成)執筆し、以下の新たな課題について成果をあげた。1)弱束縛関係式を用いたハドロンの複合性の研究:昨年度の成果により、準束縛状態への適用が可能になった弱束縛関係式であるが、導出の際にCDD極と呼ばれる構造が散乱振幅に存在しないことを仮定していた。今年度は散乱振幅に対しPade近似を用いることでCDD極が存在する場合にも適用できるように拡張し、より広いクラスの共鳴状態について関係式の適用が可能であることを示した。2)Hダイバリオンのクォーク質量依存性:SU(3)極限の重いクォーク質量領域で行われた格子QCDデータをもとに、バリオン間相互作用を有効場の理論を用いて記述し、Hダイバリオン状態がクォーク質量を変化させた際にどのように振る舞うかを調べた。物理点ではLambda-Lambda散乱の共鳴状態となること、物理点とSU(3)極限の間の領域でLambda-Lambda散乱がユニタリー極限になることを示した。3)Xi_c崩壊を用いたS=-2ストレンジバリオンの研究:Xi_c粒子の3ハドロン弱崩壊の終状態相互作用でS=-2のストレンジバリオンが生成される過程を調べ、スペクトルの予言を行なった。異なるチャンネルへの分岐比を調べることで閾値効果と共鳴状態の区別がつけられる可能性を明らかにした。4)K中間子原子核の少数計算:近年構築された現実的な相互作用を精密な少数計算法と組み合わせることで、核子数6までのK中間子原子核の準束縛状態を計算した。Kbar N相互作用と核力の競合により少数K中間子原子核が実現されることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
昨年度に引き続く課題(弱束縛関係式のCDD極への拡張、Xi_c崩壊の研究)以外に、新たな課題としてHダイバリオン及びK中間子原子核の研究を行った。有効場の理論の手法は閾値近傍の状態に対する普遍的な記述を与えるので、条件を満たす系であれば同様の枠組みを使って解析できる。よって弱束縛関係式の議論で用いた枠組みの拡張を用いて、Hダイバリオンを含むバリオン間相互作用の系の記述が可能になった。このように、有効場の理論の記述を様々なハドロン系に拡張するという本研究課題の目標に沿って研究が進捗している。K中間子原子核の計算は、カイラル有効場の理論に基づいて構築されたハドロン間ポテンシャルの応用研究であり、信頼しうる相互作用を用いた定量的なK中間子原子核の予言を行うことができた。
次年度は有効場の理論を用いた枠組みでのK中間子と核子の3体系を考える。一般に散乱長が大きい2体系を組み合わせた3体系では、低エネルギーの性質はやはり普遍的に決定できる。K中間子原子核の研究は厳密少数計算を用いたものが主流であるが、低エネルギー普遍性を用いて解析できる系を選択し、本課題の目標に沿った形での議論を行う。またK原子核の少数計算に関連して、クーロン相互作用が重要な役割を果たすK中間子原子の計算も考えられる。特にK中間子重水素は将来的な実験が国内外で計画されており、正確な計算による原子系の予言と、2対相互作用の変化に対する依存性などを明らかにすることは重要である。さらに格子QCDとの連携をさらに強化し、他のハドロン系への応用を模索する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件)
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