通常のハドロンはクォークqをqqq(バリオン)またはqqbar(メソン)と組み合わせて構成されるが,近年の実験の進展により,この分類に従わないエキゾチックな内部構造を持つハドロンの候補が見つかっている.特に,ハドロン自身を構成要素とし,ハドロン間相互作用によって形成されるハドロン分子状態と呼ばれる構造が注目を集めている.実際のハドロンの内部構造は様々な成分の重ね合わせで記述されるため,特定のハドロンの構造を議論する際には,複合性と呼ばれる指標Xでハドロン分子状態の割合を定量化する.X~1であればハドロン分子状態成分が支配的であり,X~0であればそれ以外の成分が支配的となる.弱束縛関係式は,閾値近傍にあらわれるハドロンの複合性と,散乱長と束縛エネルギーという観測量の間に模型非依存な関係を与えるため,重陽子やLambda(1405)などのハドロンの内部構造の解析に用いられてきた.しかし有効レンジが相互作用距離に比べて無視できないほど大きい系では,弱束縛関係式をそのまま適用することはできない.本研究では弱束縛関係式に有限レンジ補正を導入することで,有効レンジが無視できない系にも適用できるように改良する.解ける模型を用いた数値計算によってレンジ補正の妥当性を検証し,改良した弱束縛関係式が従来のものより広い適用範囲を持つことを示した.さらに実際の系への応用として,重陽子,X(3872),NOmegaダイバリオン,OmegaOmegaダイバリオンなどのハドロン系だけでなく,原子核系である3Lambda H$および原子系である4 Heダイマーに応用し,これらの状態の内部構造では複合的成分が支配的であることを定量的に明らかにした.特にX(3872)とNOmegaダイバリオンは従来の弱束縛関係式では正しく複合性の推定ができず,レンジ補正で改良した弱束縛関係式が必要であることが示された.
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