超相対論的な原子核衝突では、衝突直後に生成された主にグルオンからなる物質が非平衡な時間発展を行い、いずれクォークグルオンプラズマ(QGP)と呼ばれる熱平衡状態に達する。QGPはクォークとグルオンが閉じ込めから解放された状態で、宇宙初期にはそのような状態が存在したと考えられている。衝突後の物質がどのように熱平衡に達するかは重要な問題であるが、系はボーズ粒子であるグルオンの高過密状態であるため、過渡的にボーズ凝縮が形成される可能性が以前から指摘されてきた。これは通常低温で起こるボーズ凝縮が一兆度を超える高温で生成するという興味深い示唆で、ボルツマン方程式などを用いた様々な研究が行われてきた。本研究では場の理論の非平衡発展を最も完全に記述する2粒子規約形式(2PI形式)を用いて、スカラー場の成分数Nの逆冪展開のnext-to-leading order (NLO)までの効果を取り入れた時間発展方程式を数値的に解析した。その結果、系はボーズ凝縮の一歩手前の状態まで達するが、粒子数を変える非弾性衝突の効果により、凝縮はぎりぎりのところで回避される(化学ポテンシャルが粒子質量に到達しない)という結論を得た。これは通常のボルツマン方程式には含まれていない効果で、場の理論の第一原理的な手法だからこそ得られた結果であり、原子核衝突における早い熱化の問題に重要な知見を与える成果である。これらの研究成果をまとめて論文をPhysical Review Dに投稿し、掲載へと漕ぎつけた。
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