研究実績の概要 |
本年度は核子ノックアウト反応の計算へ向けて, カイラル有効場理論の2核子力, 3核子力を用いて有効核力の計算に取り組んだ. 有効核力は核物質中における2核子散乱の遷移振幅(g行列)に対応する. Bruckner理論に従って運動量表示のg行列を計算し, これをノックアウト反応に適用できるよう整備した. これと歪曲波インパルス近似計算を組み合わせ, 核子ノックアウト反応を精密に解析できる枠組みを構築した. 40Caを標的とする陽子ノックアウト反応計算に着手し, 既存の3重微分断面積の実験値を再現することで, 信頼できる理論であることを確かめた. 40Caの最も浅く束縛した陽子をノックアウトを考えた場合, 反応は密度が低い40Caの表面付近で起こるため, 3核子力効果は非常に小さいことがわかった. また同時に, カイラル有効場理論のカットオフスケールの依存性も小さいことが確かめられた. これにより, 陽子の入射エネルギーが150MeV程度では理論的不定性は生じないことが確認できた. 次に, 40Caに深く束縛された陽子のノックアウト反応を考えることで, ノックアウト反応の3重微分断面積に3核子力効果が明確に現れることを示した. この場合, 密度が比較的高い40Caの内側で反応が強く起こるため, 3核子力効果が強く影響する. 事前に期待していたとおりの成果が得られ, 本研究計画の地盤を固めることができた. 今後は核子ノックアウト反応の系統的解析を進める. また, 平成31年度の核-核散乱解析へ向けて, 有効核力計算における二重Fermi球を仮定したPauli排他効果について検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
予定通り運動量表示の有効核力を構築して理論的枠組みを用意できただけでなく, 平成29年度の計画の一部にまで踏み込むことができた. 陽子ノックアウト反応を実際に解析してその信頼性を確かめるとともに, 3核子力効果が反応観測量に現れる系を実際に見出すことができ, 早い段階で本研究計画全体の地盤を固めることに成功した.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は, 完成した理論的枠組みを用い, ノックアウト反応の入射エネルギーや運動学的条件をさまざまに変えて系統的解析を行う. 有効核力の密度依存性が強く寄与する条件や3核子力効果で断面積の形状が変える条件を見つけ出し, 3核子力効果を検証するための実験計画を提案することができる. 3核子力のアイソスピン依存性を探るため, 陽子ノックアウト反応だけでなく中性子ノックアウト反応の解析を同時に行う. 平成31年度における核-核散乱計算のための有効核力の構築を継続的に進める.
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