本年度は、まず有効核力の各成分の強さの分析を行った。有効核力そのものに着目すると、アイソスピン依存項よりもスピン-アイソスピン依存項の方が媒質効果の影響が小さい。これは、成分ごとに寄与する中間子が異なることによる相互作用のレンジの違いが顕著に反映されているためと理解できる。また、既存の有効核力では、入射エネルギーが数百MeV程度の中間エネルギー領域において、スピン-アイソスピン依存項とアイソスピン依存項の比が大きくなる傾向が見られた。荷電交換反応のうち終状態が異なるものの断面積のエネルギー依存性に注目することで、有効核力の成分を詳細に分析できると期待される。ただし、今回有効核力の性質としてわかったことは主に直接項についての知見であり、核-核散乱などの多体系においてそれがどう現れるかは、交換項まで正確に扱った上で検討しなければならない。また、カイラル有効場理論にはエネルギー適用上限があるため、高い入射エネルギーを考える場合にはその兼ね合いに注意する必要がある。有効核力の成分を分析する方法として、入射エネルギーを変えた荷電交換反応を利用できる可能性が示唆された。 核-核散乱における有効核力の密度依存性を可能な限り正確に扱うための二重Fermi球の場合に対するBruckner計算にも取り組んだが、計算の過程において困難が生じ、具体的な結果を得られていない。そのため、中性子過剰核どうしの散乱を利用した3核子力のアイソスピン依存性の分析については、結論を得るまでには至らなかった。
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