研究課題/領域番号 |
16K17700
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
飯田 崇史 大阪大学, 核物理研究センター, 特任助教(常勤) (40722905)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / 無機シンチレータ / 結晶育成 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はヨウ化カルシウムを材料とした無機シンチレータ結晶を開発し、NaI(Tl)の2倍以上の大発光量特性を生かして、暗黒物質探索や二重ベータ崩壊探索などの基礎物理学実験へ応用することである。暗黒物質、二重ベータ崩壊ともに素粒子・宇宙物理学的に見てきわめて重要な問題であるが、未だ発見には至っていない。どちらもシンチレータを使う場合、発光量の大きさが重要な実験的要因となる。 ヨウ化カルシウム(CaI2)結晶は1964年にHofstadterによって発見されており、NaIの2倍の発光量であることが知られている。しかし、当時の未熟な結晶育成・加工技術のせいで、一般に広まることなく技術が埋没してしまった。本研究では無機シンチレータの育成加工に高い実績を誇る東北大学金属材料研究所と共同で、同研究所が所有する最新の装置とノウハウを駆使して、結晶育成と加工の技術を開発した。 初年度はブリッジマン結晶育成法により1インチサイズのCaI2結晶の育成に成功した。その際、蒸発とクラックが問題となった。蒸発に関してはるつぼ封じ切りをして育成するという手法を用いて克服し、クラックも温度勾配など育成時のパラメータを調整することで防ぐことが出来た。次に作成した結晶を数mm角で小さく切り出し、結晶の特性評価を行ったところ、NaI(Tl)と比較して2.7倍という大発光量特性を確認することが出来た。また発光波長410nm、励起波長300nmという結果も得られた。1年目としては非常に良い成果を上げることに成功し、この結果を国際ジャーナルに投稿した。2年目は結晶の大型化と、結晶加工・ハウジング技術の確立を目標として研究を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定では、初年度でクラックフリー1インチ結晶の育成を目標としていた。東北大学金研のバックアップもあり、クラックフリー1インチ結晶育成は問題なく達成できた。ただし結晶の加工・ハウジング技術の確立は今後の課題である。予定よりも早く結晶が作成できたため、その性能評価を前倒しして行うことが出来た。その結果、発光量がNaI(Tl)の2.7倍と期待していた2倍よりもさらに良いことが分かった。サイズが違うため直接比較は難しいが、エネルギー分解能もNaI(Tl)結晶よりも良いことが確認できた。発光波長および励起波長を分光光度計を用いて測定し、それぞれ410nm、300nmという値を得ることが出来た。 このペースでいけば、予定していた結晶の基礎特性評価だけでなく、結晶の低不純物化など、当初の計画にない部分の研究にも今年度手をつけることが可能となる。そのために別途資金を行うことも視野に入れる。
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今後の研究の推進方策 |
2年目はCaI2結晶の加工・ハウジング技術の開発と、CaI2結晶の粒子波形識別能の研究を推進する。CaI2はへき開性を持つため加工が困難であるが、小さい結晶ではすでにへき開面に垂直なカットをすることに成功している。カットした面の研磨や、結晶を銅やアルミでハウジングする技術を東北大学金研および専門の業者と共同で開発していく。 また一般的に無機結晶では粒子ごとに波形に違いがあるため、それを用いて波形弁別を行いバックグラウンド低減が可能なことが知られている。CaI2での粒子波形識別能を調査するため、Flash-ADCを用いた波形取得を行うための実験セットアップおよびデータ取得システムの構築を行う。外から137Csや60Co等のガンマ線を照射した場合と252Cf中性子線源を照射した場合、そして内部起源のアルファ線を選んだ場合で波形の違いを調査する。 その後、もし予算と時間に余裕がある場合、結晶の低不純物化に取り組む。様々な種類のイオン交換樹脂を用いて原料のCaI2を純化する。作った結晶の内部不純物量を測定し、有用な樹脂の選定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は東北大学金研と共同で、結晶育成を目標に研究を遂行した。育成炉などの大型装置や、るつぼなどの消耗品は多くの部分が、共同研究先の東北大金研にあるものを流用することが出来た。初年度の出費を抑え次年度に回し合算することで、育成炉を強化するための支出に回すことにした。それにより新しいCaI2結晶専用炉立ち上げや元の研究計画を超えた結晶の低不純物化など、次年度における研究の選択肢を増やした。
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次年度使用額の使用計画 |
2年目は結晶の加工・ハウジング技術を確立することが最優先課題である。そのためには出来るだけ多くのCaI2結晶を作成し、様々な手法での加工・ハウジングを試行錯誤しながら最適なものを探す必要がある。大量の原料とるつぼを用意するために多くの予算を投入する。さらに波形データを取得するためのFlash-ADCやその他電子回路を購入し、CaI2結晶の特性評価を行うためのセットアップをくみ上げる。この辺りは大阪大学や福井大学などと共同で行うことも視野に入れており、物品の購入を分担出来るかもしれない。そうなった場合、イオン交換樹脂を購入して原料の低不純物化に取り組むなど、当初の予定を上回る成果を目指していきたい。
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