研究課題/領域番号 |
16K17703
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山本 直希 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (80735358)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | カイラル輸送現象 / 超新星 / 中性子星 |
研究実績の概要 |
平成28年度の研究では、超新星コアにおけるニュートリノ物質などの相対論的なカイラル物質に対して、カイラル流体力学を応用し、衝撃波の性質を調べた。カイラル物質では、通常の物質では起きないカイラル輸送現象のため、従来の衝撃波の基本的な関係式であるRankine-Hugoinot関係式が修正されることを示した。その結果、カイラル輸送現象が重要になる領域では、通常の物質では禁止される膨張衝撃波が可能になり、衝撃波の進行方向がミクロな素粒子のカイラリティによって決まる「カイラル衝撃波」が現れることを明らかにした。このようなカイラル衝撃波は超新星だけでなく、初期宇宙における電弱プラズマでも重要になりうる。 また、強い相互作用の基礎理論である量子色力学の基底状態が、高密度かつ強磁場中において、「カイラルソリトン格子」という空間的な並進対称性とパリティ対称性を破る周期的なトポロジカルソリトンの状態になることを解析的に示した。さらに磁場を大きくしていくと、荷電パイ中間子がBose-Einstein凝縮を起こすことがわかった。このようなカイラルソリトン格子は、物性系でのカイラル磁性体において既に実験的に観測されているが、本研究結果は、高密度かつ強磁場の中性子星内部のような系でも、本質的に同じ状態が現れる可能性があることを示している。このような極限状態のカイラルソリトン格子でもカイラル輸送現象が現れるため、その現象論的な重要性を明らかにすることは将来的な課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画で期待していた通り、カイラル流体力学で記述される超新星コアのニュートリノ物質では、定性的に新しいタイプのカイラル衝撃波が存在することが明らかになり、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
超新星コアのニュートリノ物質や初期宇宙の電弱プラズマのようなカイラル物質における乱流ダイナミクスの数値解析手法について、現在共同研究者とともに議論を継続している。平成29年度以降の研究では、このようなカイラル乱流の数値解析を遂行し、従来のカイラル輸送現象を無視した解析結果との定性的・定量的な違いを見た上で、その超新星や初期宇宙における役割を明らかにする。 また、高密度かつ強磁場での量子色力学の基底状態である「カイラルソリトン格子」においてもカイラル輸送現象が現れることが分かっており、その現象論的な重要性を解明することは新たな課題である。この問題に対して、カイラルソリトン格子が存在する場合に電磁場の時間発展がどのように変更を受けるかについて解析を行う。
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