研究課題/領域番号 |
16K17704
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
木下 俊一郎 中央大学, 理工学部, 助教 (20548226)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ゲージ・重力対応 / フロッケ状態 / エネルギー引き抜き機構 |
研究実績の概要 |
当該年度は、ゲージ・重力対応を用いた非平衡状態の研究として、回転電場を印加した元でのホログラフィックQCDモデルの解析を行った。 静電場を印加する場合は、重力側ではD3/D7ブレーン系の静的解で記述され電場と電圧の関係が線形でない非線形電導性を示すことが知られているが、本研究課題では同様のモデルを電場の方向が時間とともに周期変動する回転電場へと拡張して、D3/D7ブレーン系の解の構築およびその性質の詳細な解析を行った。これにより、従来の電場の強さの他に周波数という新たなパラメータが系に導入され、静電場の時の定常電流が存在する非平衡定常状態を越えた、あらわに時間に依存する非平衡フロッケ状態という、より広い相について電気伝導やその線形応答の性質を調べた。特に静電場を含む低周波側では非線形電導であったものが、高周波側では線形電導性を示すことを明らかにした。 また派生した研究として、重力側で同種の系であるブラックホール・ストリング系を用いて、ストリングによるブラックホールの回転エネルギー引き抜き機構の解析を行った。角運動量フラックスとストリングの回転角速度をパラメータとして、エネルギー引き抜きの可能領域を明らかにし、エネルギー引き抜きの必要条件および最大エネルギーフラックスを導出した。以上の結果は、ブレーンをはじめとするストリングを拡張した対象に対しても一般的に成り立つ現象であり、ゲージ・重力対応での同種の系への適用や、宇宙物理への適用も考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲージ・重力対応で扱う対象として、これまでの非平衡定常状態以外に非平衡フロッケ状態を提案し実際に構成することで、非平衡状態の物理の解明や新奇な物性の探索に向け新たな方向性を拓いたため。
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今後の研究の推進方策 |
回転電場を印加したホログラフィックQCD系は、クォーク質量・温度をはじめとして様々なパラメータを含んでおり、それらの値に応じて多様な物性を示すことが期待される。特に本年度はもっとも単純なクォーク質量・温度がゼロの場合に限り解析したが、これらを有限にすることで絶縁相・電導相転移が生じより複雑な相図となる。今後は様々なパラメータに対して、このような相図を得ていく。 また多様な相図が得られたときに、安定で実現されうる相を同定することは物理的に重要な課題である。しかし、現在扱っている系は非平衡系であるため、既存の平衡熱力学による安定性の議論をそのまま適用することは不可能である。従って、ゲージ・重力対応の重力側からの安定性の議論など別の観点も視野に入れつつ、相の安定性の解明さらに非平衡系に適用しうる新たな安定性の概念の構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
数値計算の目的で計算機と関連ソフトウェアへの使用を計画していたが、当該年度は主に解析的な計算を中心とした研究が推進したため、そちらの研究を優先させた。
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次年度使用額の使用計画 |
当該年度に購入予定だった計算機等を購入して、数値計算を使った研究を遂行する。またすでに得られている研究結果の成果発表のため、数回の旅費として使用する計画である。
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