研究課題/領域番号 |
16K17705
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
満汐 孝治 東京理科大学, 理学部, 助教 (10710840)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 量子ビーム / 陽電子 / ポジトロニウム負イオン / 光脱離 |
研究実績の概要 |
本研究では、ポジトロニウム負イオン(電子2個と陽電子1個の三体束縛状態)の光誘起電子脱離断面積を広範な光子エネルギー領域にわたって測定することで、その光脱離素過程を明らかにする。具体的には、(1)高いレーザー光強度での光吸収飽和を利用した、Nd:YAGの基本波(1064 nm)、2倍波、3倍波での光脱離断面積の絶対値測定、(2)波長可変IRレーザーを用いた、電子脱離閾値近傍での断面積測定と閾エネルギー分光を実施する。 平成28年度には、RIベースの低速陽電子ビーム源と蓄積型陽電子パルス化装置の最適化及び性能評価を行った。陽電子の蓄積とパルス引き出しの繰り返し動作により、高繰り返し(50Hz)での短パルスビーム発生を確認した。後段にポテンシャルバンチャーを配備することで、パルスの時間幅を20 nsから2 nsにまで圧縮し、パルスレーザー光との同期及び時間マッチングを可能にした。更に、得られたパルス状陽電子ビームをナトリウム吸着タングステン薄膜に照射して、ポジトロニウム負イオンを生成した。負イオン生成膜の表面処理条件や陽電子の打ち込み深さを最適化し、負イオン生成の高効率化を実現した。 また、パルス光の時間・空間強度分布計測システムと、マイクロチャンネルプレート検出器および高速デジタイザーからなるフラグメント測定システムを構築した。この測定システムを用いて、ポジトロニウム負イオンのレーザー光脱離によって形成されたポジトロニウムを高効率で検出できることを確認した。レーザー光強度に対するポジトロニウム収量のパイロット測定を行った結果、高い光強度において収量飽和が起こることを確認でき、光脱離断面積測定に必要な実験技術を確立させた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の進捗状況として、パルス状陽電子ビーム発生装置の最適化と性能評価、ポジトロニウム負イオンの高効率発生技術の開発並びに測定システムの開発を完了し、断面積測定に必要な実験技術を構築した。当初の計画では、Nd:YAGの基本波・倍波の波長における光脱離断面積測定を実施する予定であったが、負イオン生成膜の経時劣化によって負イオンビーム強度が安定せず、定量的なデータを得るには至らなかった。このため、進捗がやや遅れている。 年度の最終月において、膜の劣化が残留ガス付着に由来すると仮定して、真空槽のリーク検査や真空漏れ部品の交換作業を徹底的に実施した。その結果、真空圧力が1×10-8 Paにまで低下し、ビーム強度の安定性が実験可能なレベルにまで向上した。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度に構築した測定装置とNd:YAGレーザー光源を用いて、光脱離断面積の測定を始める。この測定が終了次第、赤外レーザー用の光学系を構築し、電子脱離閾値近傍での断面積測定を進めていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度に光脱離断面積の測定を開始する予定であったが、負イオンビーム強度の安定性問題が原因で測定を実施できなかったため、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に、断面積測定を実施する上で必要となる光学部品(ミラー等)の購入に充てる予定である。
|