研究課題/領域番号 |
16K17714
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
市川 裕大 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 博士研究員 (50756244)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 飛跡検出器 / TPC / GEM |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、大強度加速器施設J-PARCで使用する三次元飛跡検出器Time Projection Chamber 「HypTPC」のビームレートに対する耐性を向上させることである。このHypTPCはHダイバリオン探索実験で使用するために、現在開発を進めている検出器である。Hダイバリオン探索実験では、期待されるビーム強度が10^6 Hz程度であるK中間子ビームを使用するため、HypTPCのビーム強度耐性は10^6 Hzを目標に設計した。ここで、我々はこのHypTPCを使用して、Hダイバリオン探索以外の新しい実験を行うことを検討している。新しい実験では、K中間子ビームよりもより高強度のビームが利用できるpi中間子ビームを使用するため、現在TPCが達成している10^6 Hzのビーム強度耐性を更に向上させる必要がある。 そこで、本研究ではビーム通過部のみマスクすることで、10^7 Hz以上のビーム強度耐性を得る。具体的には、HypTPCの電子増幅部ではGEM(Gas Electron Multiplier)を使用するが、ビームが通過する部分だけGEMを不感にすることによって、より高いビーム強度に耐えられるようにする。 平成28年度はまず不感化GEMを制作し、HypTPC実機に組み込みテストを行った。 11月7日から9日にかけて東北大学電子光理学研究センター(ELPH)にて、陽電子ビームを用いたテストを行った。テスト実験の結果、不感化GEMがきちんと動作していることは確認した。全体に電圧をかけた場合にはきちんと信号が出ている一方で、ビームが通る部分に電圧をかけなかった場合には、ビームが通っているにもかかわらず全く信号が出ていないことを確認した。このテスト実験の結果を物理学会などで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、1年目は試作機でのテストの予定のみであったが、ビーム通過領域だけ他の領域とは独立した高電圧をかけることができる手法を思いついたため、HypTPC実機に組み込むことができた。すなわち、この手法では、不感化GEMの全ての領域に高電圧をかけると通常のGEMとしても使用できるため、通常のGEMとしてHypTPCに組み込むことが可能となった。 HypTPC実機に組み込んだ後は、11月7日から9日にかけて東北大学電子光理学研究センター(ELPH)にてHypTPCのテスト実験を行うことができた。このテスト実験ではELPHから供給される電子ビームをHypTPCに通し、その信号を見ることで、HypTPCの性能を調べた。しかし、テスト実験の当初は信号が小さく、ゲインを稼ごうとして電圧をかけすぎてしまい、結果として放電が起きてGEMの一部を破損してしまったが、GEMの配置変更(上層と下層のGEMの交換)によってゲインが数倍向上することがわかり、設定電圧を低くできたため放電の問題は解決できたと考えている。なお、この破損した部分については、平成29年度の予算で買いなおしたい。 テスト実験の結果、不感化GEMがきちんと動作していることは確認できた。全体に電圧をかけた場合にはきちんと信号が出ている。 一方で、ビームが通る部分に電圧をかけなかった場合には、ビームが通っているにもかかわらず全く信号が出ていないことを確認できた。これらの結果を物理学会などで発表し、好評であった。なお、ELPHの都合上、高レート試験はできなかった。これはまた平成29年度に改めて行いたいと考えている。 以上のように、不感化GEMを制作し、低ビームレートでの試験を行うことまで進展したため、概ね順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究で、GEMの配置変更(上層と下層のGEMの交換)によって電子増幅のゲインが数倍向上することがわかった。すなわち、今年度実施したテスト実験では、上層から50um, 50um, 100um厚のGEMを重なる手法を用いたが、GEMの配置を上層から100um, 50um, 50umと配置変更した方がゲインが数倍向上することがわかった。ここで、本研究で作成した不感化GEMは最上層に使用するため、昨年度製作したGEMは50um厚のものである。上記の通り、最上層には100um厚のGEMとした方がゲインが向上するとわかったため、今年度予算で100um厚の不感化GEMを制作し、テストしたいと考えている。 実験室で、新しく制作した不感化GEMを組み込んだ上でHypTPCのテストを宇宙線や線源を用いて実施し、ゲインや位置分解能の評価を行う。実験室で十分な性能が得られていることを確認したのち、千葉県にあるHIMACにて陽子ビームを用いて高レート試験を行う。 この高レート試験では、10^3 ~ 10^8 Hzまでの様々な強度の陽子ビームを直接HypTPCに入射し、各々の条件において位置分解能などHypTPCの基本性能を評価する。この高レート試験を通じて、不感化GEM HypTPCのレート耐性を実測し、研究を完成させる。 また、新実験に必要な液体重水素標的も作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画において、成果発表のための学会参加に係る旅費等の支出を予定していたが、別財源にて支出したため、その分の予算が、次年度使用額として生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度分の経費は当初計画に従い、液体重水素標的の製作費用等や研究成果を発表する学会参加に係る経費として使用する予定であり、平成28年度の次年度使用額については平成29年度分経費と合わせて、研究成果を発表する費用(旅費・参加費・論文投稿料等)として使用する計画である。
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