本研究は、大強度加速器施設J-PARCで用いる三次元飛跡検出器Time Projection Chamber「HypTPC」のビーム強度耐性を10^6 Hzから10^7 Hz程度に一桁向上させることを目的としている。具体的に、HypTPCは電子増幅を行うためにGas Electron Multiplier(GEM)を使用するが、ビーム通過する部分のみGEMを不感化する(不感化GEM)ことで、より高いビーム強度下で使用できるようにする。 平成28年度中に不感化GEMを製作し、東北大学ELPHにおいて、陽電子ビームを用いたテストを行った。結果、全体に電圧をかけた場合には正しく信号が出ている一方で、ビームが通る部分の電圧を下げた場合には、ビームが通っているにもかかわらず全く信号が出ていないことを確認するなど、不感化GEMが正しく動作している傾向をつかんだ。しかし、ELPHの事情で、10^3 Hz程度の低強度ビーム下でしか試験できなかった。 平成29年度にELPH実験のデータ解析を進めた結果、TPCによって得られた軌跡に系統的な歪みがある事がわかった。また、28年度に製作したGEMは放電頻度が高く、ELPHでの実験中に、放電によりGEMの一部を破損してしまうという問題が起きていた。 これらの原因を詳しく調べたところ、28年度に製作したGEMは最大2mmもたわんでいることが判明したため、この点に改良を施した。具体的には、不感化GEMのサポートフレームへの接着方法を改良するとともに、サポートフレーム自体を追加した。これにより、たわみを0.5mm以下に抑えるとともに、放電頻度も劇的に下げることに成功し、大きな改善が見られた。平成30年7月にHIMACにおいて、この改良したGEMを用い、実際に10^7 Hz以上の高強度陽子ビームを照射し、HypTPCの強度耐性の実証試験を行う予定である。
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