研究課題/領域番号 |
16K17715
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
阿部 智広 名古屋大学, 高等研究院(基礎理論), 特任助教 (70712727)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 素粒子論 / 電弱対称性の自発的破れ / ヒッグスポテンシャル / W' |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ボトムアップ的アプローチから構築可能な様々な W ′ 模型を系統的に分類し、その現象論的帰結と各種実験結果との比較を通じて、どのような W ′ 模型が現実的であるのか絞りこむことである。2016年度は、模型の分類とW ' の崩壊率の整理を目的に取り組んだ。 効率的な模型の分類のために、理論へ摂動論的ユニタリティーを要求した。これは理論の計算可能性と内部無矛盾性を要求することに相当する。結果として W ' の主崩壊モードがフェルミオンかボソンかを判定する事、またその崩壊率から新粒子の相互作用の強さが推定する事は、模型の詳細に立ち入る事なく物質場の表現のみから可能である事を示す事に成功した [Phys.Rev. D95 (2017) 075022]。新粒子として W' 以外のものがない場合には、計算可能性を放棄しない限りW' の WZ への崩壊率は模型によらず必ず 2% 以下になる事を示せた事は大きな成果と言える。 素粒子標準模型を超える物理模型の1つに two-Higgs doublet model (THDM) がある。この模型は現象論的制限や解析の都合等から3つの性質、すなわち(i) ソフトに破れたZ2対称性 (ii) カストディアル対称 (iii) ヒッグスポテンシャルのCP不変性、が仮定される事がしばしばである。しかし、これら仮定の理論的根拠が議論される事はほぼなかった。私は W ' 模型が低エネルギーでTHDMとして有効的に記述できる事に着目し、これら3つの仮定が、たった1つの仮定から導ける事を示した [JHEP 1608 (2016) 021]。これにより既存の仮定を正当化する理論的根拠を与えることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定した模型の分類が終わり、論文として発表できた。低エネルギー物理への影響という観点からヒッグスの物理への影響を考察するつもりではいたが、THDMにおいて人気のある3つの仮定を W' 模型から導出できる事は想定外だった。
|
今後の研究の推進方策 |
LHC実験が当初の予定以上に W ' を強く制限しはじめた。その制限を逃れられるか、という観点から、W' のエキゾチックな崩壊モードに着目した研究を優先的に行おうと思う。 くりこみ可能な模型の範囲内で考えると、ヒッグス粒子 ( h ) 以外の新しいスカラー粒子が少なくとも1つ存在する(まとめて h′ と呼ぶ)。これは模型の検証、模型がくりこみ可能かどうかの判定、にとって重要であるため、模型ごとに h′ の生成過程や崩壊モードを調べ、LHC 実験でどのように探索可能か調べる。 h′ が存在し、これが W ′ よりも軽い場合、W ′ → W h′ というエキゾチックな崩壊モードが存在できる。W ′ と h′ の質量の大小関係で、さらに細かく模型を分類し、この崩壊モードが W ′ 探索にどう影響するか、コライダーシミュレーションも含め、調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
1万円程度では1回の出張費用に足りないため。
|
次年度使用額の使用計画 |
旅費に上乗せする。
|