研究課題/領域番号 |
16K17718
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
橋本 直 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, 基礎科学特別研究員 (20732952)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超伝導検出器 / X線検出器 / J-PARC / K中間子原子 / TES / マイクロカロリメータ |
研究実績の概要 |
ハドロンと原子核間の強い相互作用の研究における強力な手法の一つであるハドロニック原子 X 線分光の精度を向上させるため、高いエネルギー分解能を持つ超伝導遷移端型マイクロカロリメータ (TES) の大強度ハドロンビーム環境下での応用の確立を目指す。 この研究 はストレンジネスを含む K-, Σ-, Ξ- の各原子 X 線分光でのTES検出器の使用を視野に入れたものであり、これにより低エネルギー量子色力学及び中性子星物質の理解へ重要な貢献をできると期待される。 本年度前半には、J-PARC K1.8BRビームラインにて 、K中間子ヘリウム原子X線分光に向けてのTES検出器ビームコミッショニングを行なった。J-PARCは5.52秒周期のパルスビームを提供するため、ビームによる検出器への熱流入が一定ではなく、当初熱浴の温度制御に問題が生じた。しかしコリメータの設置でビームハローを抑えるなどして、現実的なK-ビーム環境でTES検出器を安定動作させることに成功した。達成した分解能は6~7 eV@6 keVと K中間子ヘリウム実験に必要な性能をほぼ満たしている。同時にX線スペクトルでの荷電粒子によるバックグラウンドを十分に提言することにも成功した。 K-ビームを用いたデータや、その後取得したSr90線源のデータを用いて荷電粒子バックグラウンドの除去をオフライン解析により行う方法を研究した。その結果、荷電粒子がX線と類似の信号を発生させるとき、周辺のピクセルにも小さな信号を生じさせていることがわかった。このことを利用すればハードウェアを変えることなくバックグラウンドを低減できる。 さらに、TES検出器の立体角を最大化するため磁気シールドやTES直上のシリコン製コリメータを新しくデザインし、製作した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TES検出器をJ-PARCのK-ビーム環境下で動作させることに成功したことは大きな進展である。荷電粒子バックグラウンドの低減方法への糸口をつかむこともできたため、本研究計画は概ね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
(1) データ取得システムのソフトウェア、ファームウェアの改造により任意のトリガーされたピクセルの隣接ピクセルも同時に波形を取得できるようにし、荷電粒子由来の事象をオフライン解析で識別可能にする。 (2) 新規に製作した、磁気シールドやコリメータを実装した状態でのTES検出器の動作を確立する。必要に応じてデザインをさらに改良し、検出器立体角をより大きくする。 (3) 平成30年度初頭に予定されるK中間子ヘリウム原子実験に向けてビームハローに対するコリメータの最適化などを行い、TES検出器がより高性能を発揮できる環境を作る。 (4) ほぼ不感時間なしで取得できるTES 検出器のX線データ解析にビーム情報を効率的に生かすため、ビームデータ取得システムの不感時間を低減する開発を行う。 (5) TES検出器の応用の拡大を目指し、現有の10 keV以下用の検出器素子に加え、より高エネルギーX線の検出が可能なものや多層化による荷電粒子事象の識別などの開発を目指し共同研究者らと議論を進展させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初29年度初頭にK中間子ヘリウム原子X線分光実験を行う予定であったが、ビームタイムの予定が遅れたため、実験前に予定していた製作物や購入予定品についてデザインや検討により多く時間をかけることとした。関連する議論のための出張も次年度に延期した。
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次年度使用額の使用計画 |
海外含む共同研究機関への旅費、ビームライン上のコリメータ製作、TESシステムと同期して低不感時間でビームデータを取得するためのモジュール購入等に使用する。
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