強相関電子系の物質では、超高速・高効率の光誘起相転移現象が見出されており、将来の光スイッチングデバイスへの応用が期待されている。また、学術的にも、新しい非平行物理学のトピックスとして注目を浴びている。本研究では、これまで自作してきた非同軸パラメトリックアンプ(NOPA)を改良し、高時間分解能のポンプ―プローブ分光を行うことによって、強相関電子系物質の光誘起相転移の初期電子応答の実時間観測を行うことを目的とした。昨年度までに、NOPAを改良することによって、パルス幅6.5fsの可視超短パルス光を得ることに成功した。そして、この超短パルス光を利用したポンプ―プローブ分光測定を、一次元モット絶縁体である塩素架橋Ni錯体に適用した結果、励起子生成の初期電子過程を実時間観測することに成功した。この研究によって、励起子状態を安定化させるための格子歪を明らかにすることができた。また、励起子生成直後は、幾つかの量子状態の重ね合わせとなっており、それらの間の量子干渉が生じることが新たに分かった。 本年度では、有機電荷移動錯体における電子と分子内振動間の相互作用を解明するために、キャリアエンベロープ位相安定な中性外光パルスをポンプ光とし、NOPAから発生させた6.5fsパルスをプローブ光としたポンプ―プローブ測定系を構築した。有機電荷移動錯体であるTTF-CAのイオン性相にこの測定を適用した結果、分子内振動モードを直接励起することでTTF分子とCA分子の間に生じる電子移動を実時間観測し、電子・分子内振動相互作用の存在を実証することに世界で初めて成功した。 以上のように、6.5fsの可視超短パルス光を発生させる装置を構築し、そのパルス光を利用したポンプ―プローブ測定を行うことで、強相関電子系の電子ダイナミクスを捉えることに成功したことが、本研究の成果である。
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