研究課題/領域番号 |
16K17722
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
和達 大樹 東京大学, 物性研究所, 准教授 (00579972)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 磁化反転 / シンクロトロン / レーザー / 強磁性 / 薄膜 / 合金 / 酸化物 / ダブルペロブスカイト |
研究実績の概要 |
本研究では、レーザーによる強磁性体の磁化反転機構の解明と、磁化反転機構の普遍性の追究がテーマである。実験手法として、時間分解型のX線分光、特にシンクロトロン放射X線とX線自由電子レーザー(XFEL)を用いて、この課題に取り組む。対象とする物質として、合金系と酸化物磁性体がある。主な測定手法は、X線磁気円二色性(XMCD)である。時間分解XMCD測定により、元素ごとのダイナミクスを観測することができ、2種類以上の磁性元素が含まれる系での磁化反転の本質に切り込むことができる。具体的に得られた結果は下記のものである。 まず、SPring-8の東大物性研ビームラインBL07LSUでの時間分解XMCD測定に成功した。800 nmのチタンサファイアレーザーをポンプ光として室温強磁性体の合金薄膜FePtに照射し、FeのL端での時間分解XMCD測定を行った。磁化の消える時間スケールが放射光の時間幅である50 psよりずっと短いことが明らかになった。 さらに、ドイツBESSY IIでの時間分解XMCD測定により、酸化物磁性体であるダブルペロブスカイトLa2MnFeO6とLa2MnNiO6の薄膜に対し、時間分解XMCD測定を行い、2種類の磁性元素の応答速度を別々に明らかにすることができた。 カー顕微鏡によるレーザー照射効果の観測も行った。レーザーの円偏光に依存した磁化反転を探索し、強磁性のFePt薄膜では成功しなかったが、Co/Ptの超格子薄膜に対して発見することにも成功した。特に、薄い薄膜ほど起こりやすい現象であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでは、当初の計画以上の進展が見られている。特に、SPring-8の東大物性研ビームラインBL07LSUでの時間分解XMCD測定には成功し、実験手法の確立を行うことができた。世界的に見てもアメリカやドイツのXFELと放射光の施設で成功例があるのみで、世界有数の装置のレベルとなっている。また、合金系と酸化物系の両方で時間分解XMCD測定に成功したことも大きな進展であり、金属性などの違いや元素による応答速度の違いが明確になった。さらに、カー顕微鏡による測定により、実際にレーザー励起磁化反転が見られたのも重要であり、平成29年度でのさらなる測定につながる成果であった。
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今後の研究の推進方策 |
今度は下記のように研究を進める。特に、SPring-8のみでなくSACLAでの時間分解測定を目指すのが第一である。上記のように放射光の時間幅以下の超高速な応答が見られているため、1 ps以下の時間スケールをSACLAで明らかにしたい。BL3の硬X線とBL1の軟X線の併用を考えており、時間分解XMCD測定をPtのL端やFe, CoのM, L端で行いたい。必要に応じてアメリカのXFEL施設LCLSでも測定を考えている。物質のさらなる探索として、磁化反転のための特にPtの必要性の検証を考えている。PtをPdに代えた試料での観測によりPtがどこまで必要かを考え、その結果に応じてスピン軌道相互作用の必要性とこの磁化反転の普遍性を追究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として、真空部品、光学部品などで施設共通のものを使い、節約することができた。
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次年度使用額の使用計画 |
レーザー導入などの光学部品に使用予定である。
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備考 |
出版された論文の内容でプレスリリースを行った。
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