研究課題/領域番号 |
16K17724
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
只野 央将 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 若手国際研究センター, ICYS研究員 (90760653)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 非調和効果 / フォノン / 格子熱伝導率 / 第一原理計算 / 自由エネルギー |
研究実績の概要 |
今年度も引き続き原子振動の非調和効果を考慮した第一原理格子動力学法の開発と応用計算を行った。まず、self-consistent phonon(SCP)法を自由エネルギー計算に展開し、従来の準調和近似(QHA)では無視されるフォノン-フォノン相互作用を考慮可能な自由エネルギー計算コードを作成した。さらに、improved self-consistent phonon (ISC)法に基づいて3次・4次非調和効果を同時に考慮する方法も開発した。これらの手法をQHAが破綻するScF3へ適用し、大きな負熱膨張とその温度依存性を定量的に説明することに成功した。 また、クラスレート化合物における熱伝導のガラス的温度特性の起源の第一原理解析を行い、低温(20 K)で見られる熱伝導率のディップやプラトーは、強いフォノン-フォノン散乱さえ考慮すれば、構造の乱れが無くても説明できることを明らかにした。その一方で、高温では局在フォノンによるホッピング伝導の寄与が無視できなくなる可能性を実験と計算結果との詳細な比較により示した。 本プロジェクトの主題の一つである3次非調和効果の非摂動計算手法についても、継続して開発を進めている。当初の予想よりも計算コストが高くなったため、計算アルゴリズムの見直しを行い、少なくとも2倍の高速化に成功した。また、圧縮センシングを用いて3次非調和項をスパース化することで計算効率の劇的な改善が見込まれるため、そのためのプログラム整備(API開発)にも注力した。さらに、ペロブスカイトを対象に、非調和フォノンが電子格子相互作用を介してバンドギャップに与える効果の解析を行った。 以上の成果をもとに論文発表(発表済4本、投稿中:1本)と学会発表(9件、うち招待講演4件)を行った。また、開発した計算プログラムの一部を計算パッケージALAMODEの機能として公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は非調和効果を考慮した自由エネルギー計算やALAMODEパッケージのAPI作成など当初の計画以上に進展した項目があり、また3次非調和効果の非摂動的な扱いや電子格子相互作用の解析などにも十分な進展が見られた。その一方で、SnSeの熱伝導率が計算と実験で一致しない問題は決着しておらず、またスピン自由度による熱伝導率低減メカニズムの解析も十分な進展には至らず、次年度へ持ち越すこととなった。これらを総合的に判断すると、プロジェクト全体の進捗は概ね順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は3次非調和効果の非摂動計算方法を完成させ、さらに電子格子相互作用がバンドギャップや輸送特性に与える影響の解析をさらに進めることを最重要課題として研究を遂行する。当初は、開発した手法をSnSeへ適用することを計画していたが、SnSeでは理論の精度を検証するための中性子散乱のデータが乏しく、また熱伝導率に関しても実験結果が大きくばらついているため、当初の方針を転換し、より扱いやすいScF3やペロブスカイトを対象として計算・実験の比較を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)国内・国際学会での研究発表・出張回数は予定通りであったが、科研費以外の研究費から支出した場合があったため予定よりも使用額が少なくなった。 (使用計画)次年度の国際・国内会議への出張費用と論文のオープンアクセス費用として利用する予定である。
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