昨年度までに開発したself-consistent phonon (SCP) 法に基づく自由エネルギー計算を立方晶および正方晶SrTiO3へ適用し、両者の自由エネルギー比較によって構造相転移温度の第一原理予測を行った。その結果、Tc = 80 Kという実験結果(105 K)と良く一致する値を得た。また、SCP法において原子振動の量子効果を無視する古典近似を用いると転移温度が170Kとなる事を明らかにし、ペロブスカイト酸化物の構造相転移における量子効果の重要性を数値的に実証した。 また、熱電材料であるテトラへドライトCu12Sb4S13に見られる格子熱伝導の弱い温度依存性の起源を明らかにするために第一原理解析を行った。その結果、Cu原子の大振幅(ラットリング)振動モードの昇温に伴うハード化によって高温域における熱伝導の温度依存性が弱まる事を明らかにした。更に、高温域ではバンド的伝導とホッピング的伝導の両者が共存している事を実証した。 以上の成果をもとに論文発表(発表済1本、採択済:1本)と学会発表(16件、うち招待講演6件)を行った。 本研究計画の過程で開発を行った理論手法は、その多くが既にALAMODEパッケージに実装済みであり、未実装部分に関しても順次追加予定である。この計算パッケージによって、これまで困難だった有限温度効果を考慮したフォノン、熱伝導、自由エネルギー計算が可能になり、セラミックス材料や熱電材料などのフォノン物性が高い精度で予測可能になった。今後も適用例の更なる拡大が期待できる。
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