最終年度には,スピン縮退の解けた線ノード半金属物質探索の基本的性質を明らかにした.これまでの線ノード研究は,スピン縮退しているものがほとんどであった.一方,スピン縮退が解けている場合には,Zak位相が有限値を取りうるので,これに関連するトポロジカル量子現象を探求するのに最適な系となりうる.結果として,AB積層型の結晶構造の系では,スピン縮退の解けた線ノードを実現できることがわかった.逆に,これまでの線ノード研究で頻繁に議論されていた,“ドラムヘッド”型の表面状態は存在しないことも明らかになった.もし,バルクの電子状態だけでなく表面状態も同時に特異なものにするなら,AB積層型以外の結晶構造が必要になる. 全体を通して,本研究では,伝導帯と価電子帯がブリルアン域中の線上で縮退した線ノードの一般的性質とその候補物質探索を行った. 前者の結果として,交差点をもった線ノードを結晶の対称性の視点から分類し,さらに,スピン軌道相互作用により線ノード半金属が(非)トポロジカル絶縁体になるかディラック半金属になるかについて,一般的な関係式を見出すことに成功した.これにより,波動関数の対称性を具体的に計算することなく,バンド構造だけからスピン軌道相互作用を考慮した後のトポロジカル相を予言することが可能になり,より簡便にトポロジカル物質を探索できると期待できる. また,候補物質としてRH3(R:希土類)が,3本の線ノードが北極と南極で交わった交差線ノード半金属物質となることを見出した.
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