本課題の目的は、テラヘルツ(THz=10^12 Hz)帯域の高周波磁気応答を示す反強磁性スピン系において、THzパルス磁場によるコヒーレント磁化駆動を行い、磁性相転移に至る極端非平衡状態でのスピンダイナミクスを解明することにある。 平成28年度は、磁性鉄酸化物における磁化運動の非線形性特性の定量的評価を行うとともに、新たに高強度広帯域テラヘルツパルス光源を開発した。 ホルミウムフェライトにおける擬反強磁性モード(共鳴周波数0.6 THz) を、微小共振器により増強したTHz磁場で駆動し、これに伴う磁化変化を時間分解MOKEで測定した。この結果、大振幅励起時には共鳴周波数のシフトとともに、高い減衰レートの増加を示すことが明らかになった。この結果を踏まえ、より高周波帯に位置する磁気モード励起による高効率磁化駆動を行うため、10 THz中心の高強度THzパルス光源を開発した。波長1.6 umのOPCPA近赤外パルス光源と、高い非線形光学係数を持つDAST有機結晶を組み合わせることで、パルス幅 ~100 fs、電場尖頭値2 MV/cmに達する高強度広帯域テラヘルツパルスの発生に成功した。本研究で確立したTHz光発生技術は、高い電場尖頭値に加え、従来の有機非線形結晶を用いたパルス光源に比べ、非常に広い帯域(1~30THz)をカバーしており、瞬間的な電磁場印加により発現する新奇非線形物理の研究に資するものと期待できる。
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