本研究では,スピン・バレートロ二クス有望材料の空間反転対称性が破れた遷移金属ダイカルコゲナイドのバレー電子の状態を走査型トンネル顕微鏡を用いて,実・波数空間の両側面から明らかにすることを目的としている.具体的には,不純物散乱によって生じる電子定在波を可視化することにより,バレーと結合しているスピン及び軌道自由度がバレー電子の散乱過程に与える影響を解明するとともに,磁場中で生じるバレーゼーマン効果の実空間依存性と磁場中スピン偏極STM測定による実空間バレー偏極の可視化を目指した.本研究では,バルクで空間反転対称性が破れた3R-NbS2において電子定在波の観察に成功し,バレー間散乱がバレー内散乱に比べ極端に抑制されていることが明らかとなった.さらに得られたバレー間散乱の抑制原因を探るため,電子散乱過程にスピンのみならず軌道選択則を考慮した電子定在波の理論計算も行った,実験とシミュレーションとの比較からバレー間散乱の抑制にバレーと結びついた軌道自由度が重要な役割を演じていることが解った.またバレーゼーマン効果の測定を17.5T,4.2Kで行ったが,トンネルスペクトルに明瞭な磁場効果は見られず,バレーゼーマン効果の検出には至らなかった.最終年度にはこの検出を目指し,より高いエネルギー分解能を有する希釈冷凍機STMの開発に成功している.またスピン偏極STM測定システムも最終年度に確立した.磁場誘起バレーゼーマン効果と磁場誘起実空間バレー偏極の可視化が将来の課題である.
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