分子性固体における新規な電気磁気現象の開拓を目的として研究を行い、以下の成果を得た。1) κ型BEDT-TTF塩の反強磁性相におけるエネルギーバンドのスピン分裂の研究:本計画で電気磁気効果の第一候補物質として注目してきたκ型BEDT-TTF塩において、その反強磁性相においてエネルギーバンドにスピンに依存した特異な分裂が生じることを見出した。このスピン分裂は、本質的にκ型の分子配列の対称性と反強磁性の結合によって生じ、原理的にスピン軌道結合に依存しない。これは、特定の対称性を持つ反強磁性体では、スピン軌道結合に頼ることなくスピンの流れを整流する機能が生じることを示唆しており、スピンホール効果に代わる新しいスピン流生成現象の実現に繋がると期待される。2) 固体酸素における空間反転対称性が破れた磁性相の研究:圧力下の固体酸素において近年報告された反強磁性相における空間反転対称性の破れについて、その微視的な起源を探った。特に酸素分子配列と結合した反強磁性の対称性に注目し、分子変位による電子遷移の変化を取り入れたパイエルス-ハバード模型を構築し、これを平均場近似により解析した。その結果、格子変形と反強磁性が共存し、さらに空間反転対称性が破れた相が実現することを見出した。この相では空間反転対称性に加えて、時間反転対称性の破れも伴うことから、線形の電気磁気効果が生じる可能性がある。これらの成果に加えて、前年度投稿中であった水素結合を含む分子性導体における電子-プロトン結合の論文がPhysical Review Bに掲載された。またCo酸化物において、スピン状態自由度に由来した新しい電気磁気効果を提案した。この成果はJournal of the Physical Society of Japanに掲載された。
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