研究課題/領域番号 |
16K17733
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
仲村 愛 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (30756771)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トリウム化合物の純良単結晶育成 / フェルミ面 |
研究実績の概要 |
多数のウラン化合物とトリウム化合物の単結晶を育成し精密な物性測定を行った。その中でもThSb2、ThBi2において純良な単結晶の育成に成功した。ThSb2、ThBi2は正方晶anti-Cu2Sb型の結晶構造を持つことが知られているが、物性についての報告がない。本研究ではそれぞれSbおよびBiの自己フラックス法で初めて単結晶を育成することに成功した。その純良単結晶を用いて電気抵抗、比熱、ドハース・ファンアルフェン(dHvA)効果の測定を行った。ThSb2およびThBi2の電流方向J||[110]の電気抵抗の温度依存性では両化合物とも室温から低温にかけて電気抵抗は直線的に減少し、ThSb2では残留抵抗ρ0=0.3 μΩcm、残留抵抗比RRR=85、ThBi2ではρ0=0.7 μΩcm、RRR=37、比熱の結果からはThSb2では電子比熱係数γ=2.6 mJ/(K2mol)、ThBi2ではγ = 3.3 mJ/(K2mol)であることがわかった。さらに、試料の純良性を反映して明瞭なdHvA振動を観測することができた。また、いくつかの主要なブランチを観測することができ、その角度依存性によってThSb2とThBi2のフェルミ面を予測することができた。さらに神戸大学の播磨尚朝教授のバンド計算の結果と対比させることでフェルミ面の詳細な形状を明らかにした。また、磁場方向H||[001]でのそれぞれのブランチのサイクロトロン有効質量はThSb2で0.11~1.02 m0、ThBi2で0.13~1.64 m0(m0: 電子の静止質量)であった。両化合物を比較すると電子比熱係数およびサイクロトロン有効質量がThBi2の方が大きいことがわかった。このことはBiの6p電子によるスピン軌道相互作用の影響を示唆している。 今年度の成果を国内外の会議および研究会等で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではアクチノイド化合物の純良単結晶育成と新物質探索および新奇超伝導体の発見とフェルミ面の解明を目的とし研究を遂行してきた。平成28年度では多くのウラン化合物とトリウム化合物の単結晶育成に成功した。例えば、ブリッジマン法でTh7T3(T: 遷移金属)および関連物質であるLa7T3、フラックス法でThGa2、ThSb2、ThBi2、ThCu2Si2、化学輸送法でU3P4などであり、この中でThGa2、ThSb2、ThBi2、ThCu2Si2は結晶構造の報告はあるがこれまでに物性についての報告はない。育成された単結晶を用いて詳細な物性測定を行った。ThSb2、ThBi2、ThCu2Si2については純良な単結晶であることがわかり、上述のとおりドハース・ファンアルフェン効果の実験によってThSb2、ThBi2のフェルミ面を明らかにした。超伝導体として知られているTh7T3については単結晶による実験は初めてで、今後、詳細に調べていく必要がある。平成28年度では未だ新奇超伝導体の発見には至っていないが、試料育成から精密物性測定の一連を確立することができており、物質探索を進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、平成28年度に引き続き東北大学金属材料研究所の青木大教授の研究グループの協力を得ながら単結晶育成およびその純良化を行う。育成された試料についてはX線回折測定装置で構造解析を行い、試料を評価する。その後、極低温、高磁場中、高圧力下での極限環境下で詳細な物性測定を行いそれぞれの電子状態を明らかにする。具体的にはブリッジマン法でTh3Ni3Sn4、フラックス法でThAl3、化学輸送法ではTh3As4、Th3P4などを育成する予定である。Th3Ni3Sn4、Th3As4、Th3P4は空間反転対称性の破れた結晶構造であるため、純良な単結晶でドハース・ファンアルフェン効果実験を行うことで反対称スピン軌道相互作用によるフェルミ面の分裂を観測できることが期待できる。また、ThCu2Si2についてはすでに純良な単結晶の育成に成功しているため、ドハース・ファンアルフェン効果実験によってフェルミ面を明らかにする。それに加えて、育成した単結晶を高圧力発生装置(ピストンシリンダーセル、ブリッジマンアンビルセル、ダイヤモンドアンビルセル等)を用いて高圧力下での物性測定を行う。高圧力下での電気抵抗、磁化、ドハース・ファンアルフェン測定については、青木研究室の本多史憲准教授の協力を得ながら遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は若手研究者相互派遣で国際共同研究を約2ヶ月間フランスのCEA-Grenobleで行っていたために、その期間内に予定していた学会出張旅費および研究物品費が残ったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は単結晶育成で使用する金属原料、るつぼ、石英ガラスなどの物品費、国際会議および国内学会・研究会での旅費、論文投稿費用などに使用する予定である。また、圧力下での物性測定を予定しているため、平成28年度から繰り越された経費分でアンビルやガスケットなど圧力測定に必要な消耗品や物品を購入する。
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