研究課題/領域番号 |
16K17734
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
木原 工 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (80733021)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 比熱 / 極低温 / 強磁場 / 強相関電子系 |
研究実績の概要 |
本年度は、申請者がこれまで開発してきた準断熱法による高速比熱測定系の測定精度を向上し、更に低温・強磁場環境下での実験を実現するべく研究を行った。温度計の交流抵抗測定に関わる部分について、プローブの配線やフィルター回路、解析プログラム等を改良することで比熱測定精度が大幅に改善され、1mg以下の微小試料でも精度良く比熱の絶対値を見積もれることを確認した。更に、実験の温度・磁場領域を拡張するために、東北大学金属材料研究所のハイブリッドマグネット及び希釈冷凍機に搭載可能な比熱測定セルを作製し動作確認を行った。こちらは3He冷凍機を使った予備的な実験を行っている段階であり、極低温下の比熱測定には到っていない。 一方で3He冷凍機を用いた0.5K以上の測定は実現しているので、本測定系の特徴を活かした物性研究も同時に進めている。本研究で開発した高速温度計測手法を用い、メタ磁性形状記憶合金におけるパルス強磁場下の磁気熱量効果測定を東京大学物性研究所の強磁場施設にて実施した。結果、磁場誘起構造相転移に伴い、関連物質とは異なる得意な磁気熱量特性が観測された。そこで、その起源を解明するために比熱の温度・磁場依存性を測定し、電子系及び格子系の寄与を詳細に調べた。メタ磁性形状記憶合金の示す巨大な磁気熱量効果は、室温領域で動作する磁気冷凍技術への応用が期待されており、背景にある物理を詳細に調べることは材料設計の指針を得るための重要な役割を担っている。パルス強磁場を用いこの物質の磁気熱量効果を、50Tを超える高磁場まで直接測定した例は本研究以外には今のところ無く、よって本研究は基礎と応用の両面で今後大きく発展する可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
長期間運転実績のなかった希釈冷凍機の試験や極低温下の測定に向けた予備実験に予想以上の時間を要したため、比熱の測定には未だ到っていない。よって当初の研究計画に対してはやや遅れている。しかしこれらの予備的な実験は平成28年度でおおよそ完了しているので、29年度のできるだけ早い時期に極低温・強磁場下の比熱測定を実施して行きたい。 一方で、本測定系の利点を生かしたメタ磁性形状記憶合金に関する磁気熱量効果及び強磁場比熱測定は、当初の予想とは異なる興味深い結果が得られている。極低温下の実験と並行して、こちらの研究も積極的に推進し、効果的に成果発表をしていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
東北大学金属材料研究所の20T級超伝導マグネットと希釈冷凍機を用いた比熱測定を行う。既に作製してある高速比熱測定系は、そのまま希釈冷凍機に搭載可能である。ただし0.5K以下の測定は未経験のため、まずは温度計の較正等を行う必要がある。また必要に応じて温度計やヒーターの抵抗の最適化を行う。これらに必要な材料等は既に購入済みである。測定系が整い次第、当初の計画通りPr系籠状物質について極低温・強磁場中の高速比熱測定を行い、核スピン比熱を除去した精密電子比熱測定を行う。 また、メタ磁性形状記憶合金に関しては、特異な磁気熱量特性の起源解明に向けて比熱や磁気熱量効果以外の測定も行っていく。具体的には、パルス強磁場中のイメージング観察を通じて磁場誘起構造相転移に伴うドメイン構造の磁場変化を調べる。この物質の構造相転移は大きなヒステリシスを持っており二相共存した状態のエントロピーを定量的に議論する必要がある。更に、様々な組成において同様の実験を展開することで電子系、磁気系、格子系それぞれの寄与を独立に議論できるようになるため、共同研究者と密に連携してそれらの実験を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
電気的ノイズを除去するためのフィルター回路の一部を自作したことで当初の予定よりも物品費を抑えることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
比熱及び磁気熱量効果測定のための極薄のサファイア基盤は次年度も引き続き必要であるため、それらを購入する。また順調に成果が出ているメタ磁性形状記憶合金に関しては、積極的に国際会議や学会、論文等で成果発表をする。
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