研究課題/領域番号 |
16K17738
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池田 暁彦 東京大学, 物性研究所, 助教 (90707663)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | スピンクロスオーバー / 強相関電子系 / コバルト酸化物 / スピン状態自由度 / 励起子凝縮 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はコバルト酸化物LaCoO3の非自明な励起スピン状態を解明することであり、その方策として超強磁場効果を探索した。本研究の結果、これまでで最も強い磁場である133テスラまでの磁化測定に成功した。この強磁場磁化測定を4.2 Kから120 Kまで行うことで、これまでで最も広い範囲で磁場・温度相図を明らかにした。その結果、強磁場におけるLaCoO3の新奇秩序相の存在が明らかになった。
当初、この新奇秩序相の起源としてはスピン状態結晶相(SSC)が有力であると考えていた。しかし複数の理論グループによる研究の結果、SSCだけでなく、励起子凝縮相(EC)も有力なモデルであることが明らかにされた。ECは高スピン状態と励起子の対応を考え、励起子のボーズ・アインシュタイン凝縮に由来するエキゾチックな相である。
比較のために基底状態で励起子凝縮を起こしていると予想されているPr系コバルト酸化物の強磁場磁化測定を行った。この系では磁場誘起スピンクロスオーバー・金属絶縁体転移・価数転移がすべて同時に起こっており、LaCoO3とは異なる。相図の形状もLaCoO3と真逆の形状をとることを明らかにした。LaCoO3とPr系コバルト酸化物では基底状態と励起状態が入れ替わっている可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究でLaCoO3の新奇強磁場相を発見した。この当初の予想をはるかに超えて豊富な物理現象に起因すると予想されており、さらなる実験的検証が急務な状況にある。本研究でスタートした超高速磁歪測定装置の構築に成功し、装置系の論文を投稿中である。この測定系を用いて磁歪測定を行う。また、電磁濃縮装置の整備も順調に進んでいる。更新されたコンデンサーバンクで500テスラ程度までの磁場発生に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の目的として、EC、SSCの実験的検証を行う。EC、SSCの実験的検証のためには磁化測定に加えて磁歪測定も有効である。また、1000テスラ超の強磁場範囲におけるユニークな相図が理論的に提案されている。現在、1000テスラまでの超強磁場発生装置の整備と超高速磁歪測定装置の構築が進行中である。
磁歪測定装置の構築は既に成功したため、これを用いて磁化測定による相図の補強を行う。磁気体積効果の情報からスピンクロスオーバーの機構を議論する。
磁化測定・磁歪測定を1000テスラ超強磁場の範囲まで延長して行う。段階的に300テスラ、500テスラと磁場を延ばして測定を行う予定である。更新したコンデンサーバンクを用いて500テスラまでの磁場発生が可能であることを確かめている。
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次年度使用額が生じた理由 |
デジタイザの垂直分解能が高速磁歪測定装置の測定分解能を決定する。このため垂直高分解能デジタイザを購入予定であった。しかし現状で構築した高速磁歪測定装置の分解能は他の要因で決定されていると考えられる。この候補として光源の強度揺らぎ、ヘリウムフロー冷却時の機械振動があげられる。このためデジタイザの導入を遅らせた。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究で開発した高速磁歪測定装置の高分解能化を目指して上記の問題を解決する。すなわち光源の調整によって強度揺らぎを最大限押さえる。また、ヘリウムフロークライオスタットの設計を調整することで冷却時の機械振動を押さえる。この進捗を見て、デジタイザの導入を検討する。
十分に上記の調整がうまくいかない場合は、デジタイザの導入を中止し、別の手法である、可変レーザー法式を導入することを考え、高分解能波長可変レーザーを導入する。
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