本研究課題は機械的剥離を用いて原子層高温超伝導体の作製を実現することとその物理的特性評価を行うことを目的としている。平成30年度は最終年度であり、前年度に引き続いてイオン液体を用いた薄膜試料のエッチング装置を開発すること、および薄膜試料の複合積層構造を作製することを目的とした。本研究の対象物質であるFeSeは機械的剥離によって単層膜を作製した例がなく、困難である。実際グラフェン以外の物質で機械的剥離を用いた単層膜作製の例は非常に乏しい。そこで比較的厚い薄膜試料をまず機械的剥離によって作製し、その後イオン液体を用いた電気化学的反応を用いたエッチングによって薄膜化の技術を確立し、同時に各膜厚における試料の特性評価を行うこと、そして最終的には単層膜を得る手法を確立することを主要な目的のひとつとしている。これを実現するため、まず研究例が豊富で既に単層膜が得られることが知られているグラファイトを用いて、100 nm程度の薄膜試料を作製し、それにおいて磁場中輸送特性評価を行うことを課題に設定した。結果として、実際にその系においていくつかの成果を得ることに成功した。具体的には機械的剥離法によってグラファイト結晶を劈開後、熱酸化膜付きのシリコン基板上に転写してデバイスを作製し、薄膜グラファイトの磁気抵抗およびゲート電圧依存性の測定を行った。ここでゲート電圧印加はイオン液体を用いた場合の電気化学反応が起こらない範囲の電圧を印加することに相当し、後にイオン液体を用いた測定を行った場合と比較することができる。本試料をアメリカ合衆国国立強磁場施設における35 Tまで磁気抵抗測定を行った結果、ゲート電圧が磁気抵抗の振る舞いに大きな影響を与えることが観測された。今後、イオン液体を用いてより強いゲート電圧を印加し、さらには電気化学反応による膜厚制御を組み合わせることで発展的な研究につながると期待される。
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