研究課題
重い電子系超伝導体CeCoIn5の超低温・強磁場で発見された新たな相において、超伝導特性が空間的に変調するFFLO超伝導が発現しているか否かで、発見から10年以上が経った今も議論が続いている。FFLO超伝導状態では秩序変数の空間変調が予測されており、その実空間観察を行うことによってその是非が明らかになる。そのため、高い空間分解能を持つ走査トンネル顕微鏡(STM)に期待がかかる。本研究では、超低温・強磁場(横磁場)で動作するSTMおよびスピン偏極STMを駆使し、CeCoIn5におけるFFLO超伝導の是非を明らかにすることを目的としている。初年度であった平成28年度は、現有する希釈冷凍機と14テスラの超伝導磁石を組み合わせて、横磁場印加型のSTMを立ち上げることを目標としていた。グラファイト試料を用いてSTMの動作テストを行った結果、室温、4 K、1.5 Kと原子分解能の観察に成功した。ただ、その安定性は十分ではなく、他のサンプル(NbSe2や高温超伝導体)の劈開表面の原子像を見るには至らなかった。トンネルスペクトルの測定では、Bi系の高温超伝導体の超伝導ギャップの観察に成功した。更に、面内強磁場中での測定を低温4 Kで行い、14 Tの強磁場でグラファイトの原子分解能を確認できた。また、サンプル交換、サンプル劈開等を行うための、真空チャンバーを設計し、製作を行った。また、4He冷凍機ベースのSTMを用いて、W(110)上のMn薄膜の磁性をスピン偏極STMを用いて調べた。その結果、第一層、第二層で報告されていたスピンスパイラルがどちらもカイラリティを有し、更にそのスピンの回転方向を決める界面ジャロシンスキー守屋(DM)相互作用の符号が同じであることを明らかにした。界面でのDM相互作用の特性が基板によって決まるという説を強くサポートする結果となった。
3: やや遅れている
製作したSTMの安定性に問題があり、その改良に時間がかかったため、予定通りに研究が進まなかった。
今後はSTMの安定性を向上させるために、様々な除振機構を用いて、安定性を下げている原因を究明し、その結果を元に、STMの更なる改良を行う。そして、まずは、NbSe2とBi系高温超伝導体の原子像を最低温度において安定して得られるようにしたいと考えている。その後、横磁場中において、これらの超伝導体の超伝導特性がどのように変化するかを明らかにしたい。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 7件、 招待講演 8件) 備考 (2件)
Phys. Rev. B (Rapid communications)
巻: 95 ページ: 060415
https://doi.org/10.1103/PhysRevB.95.060415
Journal of the Physical Society of Japan
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http://hasegawa.issp.u-tokyo.ac.jp/hasegawa/Welcome/entori/2016/8/12_entori_1.html
http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/issp_wms/DATA/OPTION/release20160812.pdf