本研究の目的は、量子多体系を記述する有効模型を高精度に解析する計算手法の開発・改良を行い、それを用いて量子多体系で発現する新奇現象の解明を行うことが目的である。また、開発を行った計算手法をオープンソースソフトウェアとして、整備して公開を行うことで、計算手法の普及活動を行うことも本研究の目的である。 最終年度は、この研究実施研究計画に沿って研究を進め以下の研究成果を得た。 (1)銅酸化物高温超伝導の第一原理有効ハミルトニアンの解析:現実の固体の電子状態を記述する有効ハミルトニアンを導出する方法である「第一原理ダウンフォールディング法」の改良を行った。具体的には、有効ハミルトニアンを解いた結果を用いて一体レベルを改良する新しい計算手法の開発を行った。その結果、銅酸化物高温超伝導体の母物質の電子状態・磁性状態を定量的に再現することに成功した。さらに、ホールドープの効果も調べ、超伝導を含む実験相図を定量的に再現することに成功するとともに、超伝導が一様な電荷感受率の増大と連動していることを明らかにした。 (2)トポロジカル物質の量子輸送現象の解析: 時間依存シュレディンガー方程式をもとに輸送現象を解析する手法を用いて、トポロジカルディラック半金属/強磁性体の接合系での輸送現象の解析を行った。その結果、強磁性体側で生じる振動磁化によって誘起される電流はトポロジカルな性質によって保護されており、振動磁場とトポロジカルディラック半金属のスピン間の相互作用が大きい極限では一定の値に収束する「量子化」が生じ、乱れにロバストなだけでなく「増強されうる」という新奇かつデバイス応用に好ましい性質を持つことを示した。 (3)開発した多変数変分モンテカルロ法のソフトウェアmVMCに関する論文の出版を行った。
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