研究課題/領域番号 |
16K17747
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
那須 譲治 東京工業大学, 理学院, 助教 (40610639)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 物性理論 / スピン軌道相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究では、強い電子相関とスピン軌道相互作用の両方が共存する場合に現れる新規な物性現象の開拓を目的に研究を行っている。スピン軌道相互作用の強い4d、5d電子系におけるモット絶縁体を主な研究対象としている。ここでは特に、スピン軌道相互作用が強い極限でキタエフ模型と呼ばれる可解模型となる量子スピン系から出発することで、可解性を足がかりとして電子状態の解析を行った。当該年度では、具体的にこの量子模型を出発点として以下の研究成果を得た。 (1) 蜂の巣格子上においてt2g軌道の縮退が存在する多軌道ハバード模型から摂動展開を行い、超交換相互作用を導出した。このとき現れる磁気秩序は、スピン軌道相互作用を導入によって抑制され、スピン液体となる可能性を議論した。また、有限温度の計算も行い、スピン軌道相互作用の有無によって、比熱やエントロピーの温度変化が大きく異なることを見いだした。 (2) キタエフ相互作用が主要な相互作用であると予想されている物質群は、層状構造からなっており、それらの層の間の相互作用の効果は不明な点が多い。本研究では、2重層キタエフ模型を考え、層間の相互作用をハイゼンベルク型にすると、キタエフ模型で存在する局所保存量の存在が維持されることを見いだした。これにより、比較的大きいクラスターでの計算が可能となった。これを利用して、層間相互作用の効果や、有限温度の性質を詳しく調べ、量子スピン液体の安定性を議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
t2g軌道自由度が存在するハバード模型から出発して、摂動展開によってKugel-Khomskii型の超交換相互作用を導出している。さらに、その模型にスピン軌道相互作用を考慮した系を考えて、その系に対して平均場近似を適用し、絶対零度における相図を完成させている。さらに、それを拡張し、有限温度の計算を行った。その結果、スピン軌道相互作用が小さいときと大きいときでは、比熱の温度変化に大きな違いが現れることを明らかにしている。 また、2次元格子上で定義されたキタエフ模型を2枚重ねること作られる2重層キタエフ模型を導入し、その解析を行っている。そこでは、層間の相互作用の導入により、量子スピン液体が抑制される傾向が見られている。 以上の成果が得られていることから、現在までの進捗状況として、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのt2g軌道自由度を有する系における有効相互作用の導出は、遷移金属イオンの八面体が辺共有をしているもののみを考えていた。これからは、これを頂点共有や面共有に拡張することで、それらの系に対する超交換相互作用を導出する。得られた模型に対して、スピン軌道相互作用の効果を調べていく。 本年度に行った2重層キタエフ模型の解析を踏まえて、その拡張として層を増やしていったときに、どのように量子状態が変化するのかを調べるのは、実際の系との対応を議論する上でも重要であると考えている。そのため、層の数を増やしていったときの性質を系統的に調べていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度において実行した計算は、計算機資源の要求量が比較的小さいものであったため、計算機の購入の一部を次年度へと繰り越した。次年度では、大きなメモリを有する計算機が必要になってくると予想されるが、これは高価であるため、繰り越し予算を用いて、計算機を複数台購入する予定である。
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