研究実績の概要 |
平成28年度の研究目的は、パイロクロア格子古典Heisenberg反強磁性体において、局所格子歪みがスピン-格子カップリングを通じて系の磁気的性質にどのような影響を与えるのかを明らかにし、対応する物質との比較検討を行うことであった。局所格子歪みの効果として、格子振動(site phonon)が媒介するスピン間有効相互作用を取り入れ、モンテカルロ数値シミュレーションを行った結果、スピン-格子カップリングの強さに応じて系の磁気的性質が異なることが明らかとなった。 カップリングの弱い領域では、ゼロ磁場下で波数(1,1,0)のBraggピークで特徴付けられるtetragonal-symmetricなコリニアー磁気長距離秩序が実現し、また、磁化過程には1/2-プラトーが確認され、そのプラトー領域では磁気構造はcubic-symmetricとなっていることが理論的に明らかとなった。このゼロ磁場下の磁気構造は、対応する磁性体であるスピネルクロム酸化物ACr2O4 (A=Zn, Cd, Mg, Hg)の多くで報告されている反強磁性相のスピン構造と類似したものであり、また、磁場下の1/2-プラトー領域の性質もA=Cd, Hgでの実験結果とコンシステントである。一方、カップリングの強い領域では、ゼロ磁場下で波数(1/2,1/2,1/2)のコリニアーな磁気秩序が実現することは明らかとなったが、磁場下の性質はやや複雑であり、今後詳細な調査が必要である。 また、近年クロム酸化物で実現されるようになった、一辺の長さが異なる大小の正四面体が交互に連なったブリージングパイロクロアと呼ばれる新しいタイプのパイロクロア格子反強磁性体を対象に、局所格子歪みの効果について解析を行った。格子の非一様性(ブリージング性)は、スピン-格子カップリングの強い領域で重要な役割を果たすことが明らかとなってきた。
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