平成30年度の研究目的は、ブリージングパイロクロアに加え、フラストレート磁性体の典型例である三角格子反強磁性体における局所格子歪みの効果を調べることであった。本年度は主に後者の三角格子系に力点を置いて研究を行った。局所格子歪みとしてbond phononモデルを用いた場合、三角格子反強磁性体においては基底状態にスピンネマティック相が現れ、また、有限温度ではZ2渦転移と呼ばれるトポロジカル転移が生じることが知られている。このZ2渦という特殊な渦が生じるとき、物理現象、特に輸送現象にどのような特徴が現れるのだろうか?Z2渦転移は、格子歪みのない極限でもその存在が予言されており、本研究では、Z2渦系のプロトタイプとして三角格子反強磁性体を対象に、スピン輸送・熱輸送の数値解析を行った。モンテカルロ及び分子動力学を用いた数値シミュレーションにより、線形応答理論の範囲内でスピン伝導率・熱伝導率の計算の温度依存性を調べた結果、スピン伝導率の縦成分がZ2渦転移温度付近で急激な増大を示すこと、また、熱伝導率には顕著な温度依存性は見られないことが分かった。通常の渦転移であるKT転移を示すフラストレーションのない正方格子反強磁性XYモデルにおいても、スピン伝導率の縦成分がKT転移温度で発散的な増大を示すことも確認し、三角格子系の結果と併せて、トポロジカル転移とスピン伝導に強い相関があることが明らかとなった。
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