研究課題/領域番号 |
16K17752
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
渡邉 努 千葉工業大学, 先進工学部, 准教授 (20402555)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 変分モンテカルロ法 / 励起子秩序 / 2軌道ハバード模型 |
研究実績の概要 |
平成28年度は交付申請時の研究計画に基づき,変分モンテカルロ法を用いて励起子絶縁体の実現性を調べる解析を行った。本研究は,未だ実験的に実現の確証を得ていない励起子秩序の普遍性を明らかにするため,物質によらない格子模型として電子相関(電子間のクーロン相互作用)とサイト間の飛び移り積分のみを考慮した2軌道ハバード模型を採用し,軌道間の準位差と電子相関強度のパラメータ変化のもとで解析を行った。 平成28年度前半(4~9月)は,変分モンテカルロ法を用いて2軌道ハバード模型で起こりうる電子状態の解析を行い,軌道間の準位差と電子相関強度の広いパラメータ領域で,スピン3重項の電子-ホールペアによる励起子絶縁体が普遍的に実現する結果を得ることができた。変分モンテカルロ法は電子相関強度によらず金属絶縁体転移を評価するため,金属からの励起子秩序を伴う絶縁化を評価することができた。この結果は,励起子秩序を伴う金属絶縁体転移が電子デバイスとしての応用化に繋がるか否かの議論を可能にすると考えられる。 平成28年度後半(10~3月)は,前半で得た励起子秩序の補足計算と,κタイプのBEDT-TTF有機錯体における電子状態の理論研究を行った。BEDT-TTF有機錯体の電子状態を作る伝導面では,2つのBEDT-TTF分子がダイマーを形成しており,ダイマー内軌道に対して励起子秩序の変分モンテカルロ解析で用いた2軌道ハバード模型がほぼ同じ形で適用できる。特に,BEDT-TTF有機錯体に適用した試行波動関数の相関関数は長距離の相関効果を含んでおり,今後この計算で用いた試行波動関数を,励起子秩序解析の結果の補強に用いる予定である。この結果は平成28年度,論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度(平成28年度)の当初の計画である,「変分モンテカルロ法を用いた励起子絶縁体の実現状況の解析」について,本申請で購入した高いCPU性能をもつワークステーションを使用することで遂行することができた。本研究により,励起子秩序を伴う絶縁体が一般的な電子状態を扱う格子模型(2軌道ハバード模型)で普遍的に現れることが明らかとなり,この結果は先行するスピン波近似を用いた有効模型の理論結果とも一致する。 しかし,本研究の変分モンテカルロ法の変分原理で用いた試行波動関数について,最適化する変分パラメータの自由度は未だ制約が多く,十分な改良の余地がある。特に,変分モンテカルロ法で競合する理論グループは多いため,変分原理の最適化解については強固なものを追求する必要がある。現在は変分パラメータのいくつかの制約を補うべく,変分モンテカルロ法の最適化部分・試行波動関数の改良を進めており,論文として発表すべく計算を急いでいる。 今後,変分モンテカルロ法による計算結果をまとめるための補足計算として,具体的には以下の課題が残っている。(1)電子相関(電子間のクーロン斥力)の効果を評価する試行波動関数の相関因子について,これまでの短距離相関から長距離相関に拡張する。(2)これまで考慮していなかった電子相関によるエネルギーバンドの変形効果を,変分パラメータの導入により評価する。(3)上記の計算を遂行するためにはこれまで以上の数の変分パラメータを最適化する必要があるため,最適化部分の改良を行う。以上の補足計算は速やかに遂行し,論文として発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度前半(平成29年度4~9月)は,本年度(平成28年度)に行った励起子秩序の実現状況についての計算結果を,補足計算を含めて論文としてまとめる。次年度後半(平成29年度10~3月)は当初の研究計画に基づき,「励起子絶縁体の発行デバイスとしての可能性」の理論研究に移行する。 平成28年度の研究により,一般的な2軌道ハバード模型において,電子とホールがペアを組む励起子秩序を伴う絶縁体状態が,電子相関のみの効果により普遍的に実現することが明らかとなった。このような,電子-ホールペアのボーズ・アインシュタイン凝縮による絶縁体ギャップは,従来のモット絶縁体やバンド絶縁体の電荷ギャップと比べるとはるかに小さいことが予想されるため,発光などによる感度の良いスイッチングが期待できる。しかし,平成28年度に行った変分モンテカルロ法による理論解析では,同一サイトの電子-ホールペアのみを試行波動関数の中で考慮しており,長距離間(離れた2サイト間)で生じるペア形成の可能性については議論していなかった。このような,電子-ホールペアの形成による絶縁化が電子デバイスとしての応用化に繋がるか否かを知るためには,より具体的なペアの形成過程を明らかにする必要があり,そのためには長距離間での電子-ホールペアによる励起子秩序の安定性を議論する必要がる。そこで平成29年度後半では,2軌道間の準位差と電子相関強度の変化のもとで,長距離での電子-ホールペアがいかにして形成されるかを調査する。 平成30年度は平成29年度までの研究結果に基づき,ペロフスカイト型酸化物を含めたより具体的な物質における励起子絶縁体の可能性についての計算に移行する予定である。
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