スピンの量子的秩序に基づいた磁気熱流制御の機構を理論的に明らかにすることが本研究の目的である。そのために主に以下の2つの具体的目標を定めた。一つ目は「印加磁場と磁気励起スペクトラムの関係性の解明」、2つ目は「磁気励起スペクトラムとスピン伝導度(および熱伝導度)の関係性の解明」である。 本年度は、まず印加磁場と磁気励起スペクトラムの関係性の解明に取り組んだ。この際、これまで取り組んできたフラストレート・スピン梯子系に加え、複数のスピン・クラスタ鎖系を対象にした。フラストレート・スピン梯子系の研究では、磁気励起スペクトラムの解析的な描像の構築に取り組んだ。この磁気励起スペクトラムは、基底状態の性質を色濃く反映して、並進対称性を破った分散を持つことが分かっている。そこで、並進対称性を弱く破る項を手で導入し有効模型を再構築することで、この分散を上手く再現できることを発見した。これは磁化プラトー相における新しい準粒子の存在を示唆するもので、それに伴うスピン伝導度の異常が予想される。同様にして、複数のスピン・クラスタ鎖系に対しても、磁気励起スペクトラムとその物理的描像の解析に取り組んだ。これらの結果は、現在論文執筆中であり、早々の学術雑誌への投稿を予定している。 一方、開発が遅れていた、スピン伝導度および熱伝導度の計算のためのコード開発にも着手した。これには、有限温度ダイナミクスを計算する必要がある。これまでの手法では、有限サイズ効果や計算時間の問題が生じることが報告されている。そこで、本研究では、固有状態を基底状態から順番に計算するアルゴリズムを考案し、厳密対角化や行列積状態変分法へ導入した。また、これを用いて、既知の模型におけるスピン伝導度を計算・比較した。今後、この手法の性能評価も含め、スピン液体相や磁化プラトー相におけるスピン伝導度および熱伝導度を計算・解析する予定である。
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