研究実績の概要 |
平成30年度は, 主に高次スピン電子のトポロジカル超伝導に関する研究を遂行した. 近年, スピンと軌道の結合によって実現する, 1/2よりも大きな有効スピンをもつ電子系とその超伝導が注目されている. これまでに我々は, 逆ペロブスカイト酸化物におけるスピン3/2 電子系において1よりも大きな巻付き数を持つトポロジカル超伝導が存在することを明らかにしてきた. そして, 巻付き数が大きいために, 表面にはマヨラナ型の線形分散を持つ束縛状態が多数現れることが判明した. 一方, このような高次スピン電子の超伝導における量子渦束縛状態の振る舞いは未解明であった. 本年度は, その解析のための数値計算プログラムを開発した. 量子渦は3次元空間の中の1次元的構造であるため, 少なくとも余次元である2つの次元に亘ってBogoliubov-de Gennes 方程式を解く必要があり, 技術的に困難であった. その克服のために本研究では, Arnoldi法と疎行列ソルバを併用したプログラムを開発した. 現在はこれを用いて, スピン3/2電子系におけるs波超伝導の解析を実施している. そして予備的な結果として, 量子渦に非自明なゼロエネルギー状態が出現することが判明しつつある. また, 上記のプログラム用いて, カイラルp波超伝導体の量子渦の解析も実施した. そしてその結果に基づいて, スイス連邦工科大学チューリッヒ校の物性理論グループと研究交流した. その上で現在は, 量子渦周りの超伝導電流とそれに伴う磁気応答の解析を実施している.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに, 逆ペロブスカイトを含むスピン3/2トポロジカル絶縁体を記述する有効模型では, 常伝導状態においても多様なトポロジカル相が実現できることが明らかになってきた. そこで平成31年度は, これらのトポロジカル相の超伝導状態に対し, 量子渦の数値解析を実施する. そして, 常伝導状態のトポロジカル数, バルク超伝導のトポロジカル数と, 量子渦におけるマヨラナ準粒子束縛状態の対応関係も明らかにしていく. また, スピン3/2電子系では, s超伝導, 合成スピン0奇パリティ超伝導, ネマティック超伝導など, スピン3/2電子系特有の豊富な超伝導ギャップ関数が可能になる. これらについても順次解析し, スピン3/2超伝導の量子渦に関する包括的な理論構築を目指す. さらに近年理論的に提案されている, 冷却原子気体系におけるスピン3/2 トポロジカル相にも着目する. そして, その常流動及び超流動状態について, スピン1/2粒子系では実現しない新たなトポロジカル特性を探索する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は研究計画を変更し, 数値解析プログラムの開発に従事したため旅費が抑えられ, 次年度使用額が生じた. 残額は次年度予算と合わせ, より多くの国際研究会への参加, 成果発表, 及び共同研究の打ち合わせを行うための旅費に充てることで, より有効に活用することができる.
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