研究実績の概要 |
分子性導体は, 分子修飾やカウンターイオンの選択,また圧力印加により, 電荷秩序, スピン密度波, スピンパイエルス, 反強磁性, 量子スピン液体, 超伝導といった多様な基底状態を見せる. これらの電子相の発現のメカニズムを解明する上で,密度汎関数理論(DFT)に基づく第一原理計算手法も近年盛んに適用されるようになってきた.しかし, DFTの枠組みで一般的に用いられている局所密度近似(LDA)や一般化密度勾配近似(GGA)に基づく計算では, 電子を過剰に非局在化させる傾向があるため, 電子相関起源の絶縁体物質では実験結果に反して金属的なバンド構造が得られてしまうことが多い. これはLDAやGGAにおける自己相互作用の問題として知られている. 本研究では,反強磁性絶縁体状態や電荷秩序状態を示す分子性導体 β’-(BEDT-TTF)2ICl2および (TMTTF)2XF6系に対してスピン分極を考慮した第一原理計算を行なった. まず, GGAを適用し反強磁性状態の安定性およびバンド構造の安定性を評価し,分子あたりの磁気モーメントを定量的に求めた. そのうえで, 自己相互作用の問題の解決策の1つとして用いられる, 短距離交換項にのみハートレーフォック法の厳密な交換項を取り入れるハイブリッド汎関数法 Heyd-Scuseria-Ernzerhof (HSE06)に基づいた計算によって電子状態を調べた結果, GGAによる結果と比較してバンドギャップや磁気モーメントが増大する(電子の局在性が高まる)ことがわかった. 今年度は, 最近, 実験的に決定された(TMTTF)2PF6の電荷秩序状態における構造に対して計算を行った結果, 絶縁体的なバンド構造が得られ反強磁性パターンについての情報も得られた. さらにHSE06汎関数を用いて構造最適化を実行し, 電荷秩序の安定性を調べた.
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