研究実績の概要 |
本研究では多様な電荷秩序状態を示す分子性固体に対してGGA汎関数とその短距離交換項にのみハートレーフォック法の厳密な交換項を取り入れるハイブリッド汎関数法Heyd-Scuseria-Ernzerhof (HSE06)を適用し, 格子変位や電荷不均一の程度にみられる物質依存性を明らかにした. a) (TMTTF)2X系のMott絶縁体や電荷秩序状態に対し, まずスピン分極を考慮したGGAによる計算を行うことによって反強磁性状態の安定性を調べた.そのうえで, HSE06汎関数に基づく計算を実行し, バンドギャップおよび磁気モーメントを評価した. 最近測定された実験構造[S. Kitou et al PRL 119, 065701 (2017)]に対して計算を行った結果, 絶縁体的なバンド構造が得られ, Mott絶縁体相とは異なる反強磁性パターンが安定化することを示した. b) 空間反転対称性を破る構造相転移を示すα-(BEDT-TTF)2と重水素の局在性と結合した不均一性を示すκ-D3(Cat-EDT-TTF)2の低温構造に対してGGAによるバンド計算を実行したところ,実験結果に反して金属的なバンド構造が得られた. これはGGAが電子を過剰に非局在化させる傾向があるためと考えられる. 一方, HSE06汎関数を用いてバンド計算を行ったところ, 絶縁体的な電子状態を得ることができた. さらに各分子の局所状態密度で評価した結果, HSE06汎関数を用い場合に電荷不均一性の程度が顕著になることがわかった.最終年度は, GGAとHSE06汎関数を用いて構造最適化を実行し, 安定構造を比較した. その結果, HSE06汎関数は実験で確認されている分子構造(TTF骨格部分のC-C結合長の違い)を安定化させることがわかった. さらにα-(BETS)2I3の安定構造も明らかにした.
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