酸化物は誘電体やイオン伝導体、超伝導体と様々な物性を示し、基礎物性から応用まで幅広く研究されている。これまで酸素イオンを他の元素(フッ素イオン等)に置換することで物性制御を行っているが、近年はヒドリド(水素陰イオン)置換による研究が注目を集めている。本研究では水素の結合状態の二面性(イオン結合性、共有結合性)に着目し、酸水素化物においてヒドリド置換で誘起される新奇物性の探索を行っている。 当該年度では、まず実験室測定系に関して、所属研究機関である高エネルギー加速器研究機構にて誘電測定(誘電率及び電気分極)を可能とするシステムを構築し、研究対象物質の誘電特性を観測可能にした。本測定システムを使用し、ニオブ置換カルシウムニッケル酸化物の誘電特性を評価し、当該物質が低温における磁気相転移点と同じ温度で電気分極が立ち上がるマルチフェロイック特性を有することが判明した。またJ-PARC MLFの高強度全散乱装置(NOVA)で中性子線回折実験を行い、磁気Braggピークを観測したところ、類似構造のバリウムニオブニッケル酸化物の磁気構造との類似が示唆される。酸水素化を行い、合成した多結晶体は置換前後で色が異なったが、転移温度に大きな変化はみられなかった。 次にペロブスカイト型強誘電体ランタンアルミネートに着目し、水素化物を用いた酸水素化を試みた。上記のカルシウムニッケル酸化物の酸水素化同様に置換前後で変色したが、酸素欠損か水素置換によるものかは現在検証中である。
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