研究実績の概要 |
統計力学における基礎理論として、相転移現象を記述するランダウ理論が確立されている。本課題では、その理論の範疇を超える脱閉じ込め転移の物理を明らかにすることを目的とする。この相転移の最も非自明な点は、ハミルトニアンには陽に現れていない分数励起とゲージ場が長距離極限で創発される点である。分数励起の創発をスピン系の言葉で表すと、秩序相で閉じ込められているスピノンが臨界点で解放されることを意味する。この非自明なスピノン励起を明らかにすることは本研究の重要な目的である。 2016年度では、脱閉じ込め転移を起こす最も基本的な模型のひとつであるSU(2)J-Q模型に対して量子モンテカルロ法を用い、励起分散関係を明らかにした。まず我々が以前開発したモンテカルロレベルスペクトロスコピーを応用し、転移点と臨界指数を高精度に求めた。次に励起分散関係のパラメータ依存性を調べ、磁気秩序相でのマグノン励起から臨界点でのスピノン励起への変化を明らかにした。注意深く有限サイズ効果を調べ、正方格子の場合、シングレットとトリプレットの両励起が(0,0),(0,π),(π,0),(π,π)の4点でギャップレスとなることを示した。また各ギャップレス励起モードにおける励起速度を計算し、熱力学的極限で全て一致する結果を得た。これらの結果は、臨界点でスピノンが解放され、線形分散関係を持つことを強く示唆する。またシングレットとトリプレット励起の非自明な縮退を見出し、臨界点では元々の模型より高い対称性[SO(5)]が創発される証拠を得た。これらの仕事をまとめて Physical Review B に発表した。
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